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夏は謎  -109- 地底の夢






 和一郎は目をパチパチさせた。 困ったのは確かだが、そんな気後れを吹っとばすほど、和一郎の心臓は強かった。
「心配だったからさ、見回りに来たんだよ。 ほら、捕まらなかったヤツは調子に乗ってまた来るっていうでしょう?」
「ネズミみたいなのが忍び込んできてたわね、確かに」
 千登勢は口を押さえ、欠伸〔あくび〕した。
「眠い。 寝不足になっちゃう」
「何のために人の庭を掘ったのか、あのチビに白状させるべきだ」
 ぶすっとして、滋が言った。



「あなたもお肌が荒れるわよ〜、今夜は二度と侵入してこないでしょうから、もうマンションに戻って」
 千登勢に体よく追い払われた和一郎が、車に乗り込んで帰っていった後、寝室に戻った夫妻は、膝を寄せて相談し始めた。
「和一ちゃんはやっぱり怪しいな」
「そう思う?」
「うん。 パトロールの強化を警察に頼んでるんだから、いつもよりはちょくちょく警官が回って来てくれてるはずだ。 その隙を縫って、こっそり入ったんだろう?」
「私たちに挨拶もせずにね」
「ひょっとするとあの二人、同じものを探してるんじゃないか?」
「て言うと?」
「防空壕だよ」
「ああ……?」
 千登勢は首をかしげた。
「でも、防空壕って名前はいかめしいけど、普通はただ掘っただけの穴でしょう?」
「ここは違うよ、きっと。 僕は戦後生まれだけど、親父の勝手さはよく覚えてる。 あのしゃれ者が、自分でスコップ使って土を掘ったりするわけがない。 使用人か誰かに命じて、本式のトンネルを作らせたんじゃないかな」
「それで? 立派なシェルターみたいなのが発見されたとしたって、それが何?」
 滋は目を光らせて膝を進めた。
「あんた『M資金』の話聞いたことがある?」
 千登勢は顔をしかめて、ちょっと考えた。
「ええと、戦後に詐欺事件がいくつも起きたでしょ? たしか、山下奉文大将がフィリピンかどこかから撤退するときに持ってきた軍資金を、どこかに隠したとか」
「そんな金なかったと、僕は思ってるけどね。 でもうちの親父なら、隠し金や隠し財産の一つや二つ、あっても不思議じゃないね」
 千登勢は額をこすって笑い出した。
「私がお嫁に来たときには、お義父さんもう体が弱ってて入退院の繰り返しだったから、どんな方かはよくわからなかったけど」
「そういうものを隠すには、地下の壕はうってつけだ。 和一ちゃんは親父から何か聞いてたのかな」
「だってまだ小さかったでしょう? お義父さんの最後の隠し子だってあなたが……」
「シッ」
 誰もいないのに、滋は本能的に周囲を見回した。
「お母さんには秘密なんだから。 しゃべっちゃ駄目だよー」




 結局、真夜中の騒ぎやその後の推理で興奮して、夫妻は朝まで眠れなかった。
 それで、翌朝の六時にはもう我慢できなくなって、一人息子の翼に電話を入れた。







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