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夏は謎
-108- 探した物
とたんに少年はむきになった。 泥棒と呼ばれるよりも、嘘つきと言われるほうがショックだったらしい。
「嘘じゃねーっ! ドアがあったんだって! あのー、掴むもの、えーと」
カッとなって言葉が出てこなくなったらしい。 反射的に千登勢が後を続けてやった。
「ドアノブ?」
「そう! ドアノブがガツッて当たったんだよ。 掘ってたら」
掘ってたらだと〜?!
三人の大人の視線が、一斉に少年の顔に集まった。
いささか神経が鈍そうな少年も、さすがに口をすべらせたことに気づいたようだ。 顎の細い痩せた顔が、ぎょっとした表情で引きつった。
彼はいきなり身を屈めて和一郎の手から逃れると、思いもよらない行動に出た。 自分を掴んでいる和一郎の膝めがけてタックルしたのだ。
和一郎は不意を突かれた。 脚が長いから、膝をつかまれるとバランスが取りにくくなる。 踊りで鍛えた足腰で何とか踏みとどまったものの、あやうく後ろに倒れそうになった。
その隙に、少年は滋の指を払い飛ばし、塀に向かってがむしゃらに走った。 まだ右足を軽く引きずっていたが、懸命に駆けて、塀から垂らしていた縄梯子のようなものにつかまり、小猿のようによじ登って、闇に消えた。
和一郎が歯がみしながら追いかけようとするのを、千登勢が止めた。
「大丈夫よ。 あの子の名前と住所は警察が知ってるわ。 たぶんお義母さんも知らされてるでしょう。
だから、逃げて知らん顔ってわけにはいかないわよ」
「でも……」
納得いかない様子の和一郎の横で、滋が腕組みしながら呟いた。
「秘密の部屋って何だ? ドアノブがどうとかって」
しゃべっているうちに、自分で気づいた。
「そうか、確か防空壕あったよな? この辺に?」
「戦後すぐ埋めちゃったんじゃないの? とっくに潰れてるでしょう」
和一郎が不機嫌そうに言った。
「今真夜中だよ。 こんな時間に人の庭に忍び込んで遊ぶなんて、あんなバカガキ少年院にでも入れればいいんだ」
そう、真夜中なのだ。
千登勢夫人は目をすがめて、高い位置にある和一郎の顔を見上げた。
「あの子もだけど、あなたどうしてここにいるの?」
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