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夏は謎  -107- 爆弾発言






「僕が見てくる。 あんたはここにいて」
 滋が素早く言い残して、裏口のほうに行こうとした。 その腕を、千登勢夫人がガシッと掴んだ。
「待ってよ〜。 出たら危ないわ」
「でも、今の声、和一ちゃんみたいだったぞ」
「えーっ?」
 千登勢は目を白黒させた。


 結局、千登勢が玄関に常備してある大きな懐中電灯を持ち、滋が金属製の靴べらを握って、二人は揃って裏口からサンダル履きで忍び出た。
 竹やぶの横を抜けると、ただっ広い庭の外れで何かがうごめいていた。 そして、滋が少し離れたところから呼びかけると、もつれあった二つの影のうち、大きなほうが身を起こし、よく通る声で答えた。
「こいつ小さいけど、むちゃくちゃ暴れるんだよ。 こっち来て、押さえるの手伝って」
 滋はおっかなびっくり近づいていった。
「なんか武器持ってる?」
「いや、たぶん……いてっ! こいつ噛みついた!」
 千登勢が急いでライトを当てた。 すると、まだ子供っぽい少年がうなぎのように体をくねらせて、黒っぽい服装の和一郎から必死に逃れようとしている姿が浮かび上がった。
 千登勢は眉を寄せて、思い出そうとした。
「お義母さん、前に子供の泥棒が入ったって言ってたけど」
「ああ、言ってたな。 だが確か、失敗して足折ったんじゃなかったか?」
「うっせーなー! 放せよ!」
 細く頼りない声で、初めて少年がわめいた。


 滋が手を貸して、ようやく少年を引っ張り上げることができた。
 和一郎は前屈みになって、少年の襟元を捉えた。
「懲りないヤツだな。 いったい何してたんだ? 真夜中過ぎに人の庭に入って」
 少年は頬をこれ以上できないほどふくらませ、そっぽを向いた。
 滋が溜息をついた。
「仕方ない。 警察に突き出そう。 二度目だから、罪が重くなるな」
「ドロボーなんか、してない!」
 少年はかすれ声でわめいた。
「探してただけだ!」
「何を?」
 古い小屋と、たくさんの犬が一斉に穴掘りしたかのようなデコボコの地面を眺めながら、千登勢が尋ねた。
 少年は、三人の大人を順番に見渡した後、しぶしぶ答えた。
「ひみつの部屋……」


 一瞬黙ってから、和一郎が爆発したように笑い出した。
「バカだなぁ〜、そんなもの、あるわけないだろ?」









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背景:月の歯車
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