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夏は謎
-106- 真夜中に
滋が強気に出たので、さすがの和一郎もそれ以上ねばることはできず、時計が八時半を回る頃、しぶしぶ帰り支度を始めた。
「でも、庭に忍び込んだ奴らがすぐ捕まればいいけど、長期戦になったらどうする? 佐喜子おばさんがずっと帰れなくなっちゃうよ」
「一週間ほど様子を見て、何も起きなければ帰ってもらう」
翼がきっぱりと言った。
「そいつらは、この家の庭をただの倉庫にしてただけみたいだし」
「じゃ、庭に穴掘ったのは?」
和一郎は噛みつくように訊き返した。
「そこも何か埋めてたんじゃないの? 広く浅く埋める物って……何かしら」
と、千登勢が首をかしげた。 なぜかその意見を聞くと、和一郎はますます苛立った。
「呑気すぎるよ、みんな。 家に火でも点けられたらどうする?」
「コソ泥が、なんでそんなことするの!」
彼のいらいらが周りの落ち着きをも乱した。 千登勢が怒り出したため、和一郎は尻尾を巻いて、ようやく腰を上げた。
「まったく! 大した伯母孝行もしてないくせに、こういう時だけいい子ぶって私たちにお説教するなんて」
和一郎が去った後も、千登勢はしばらくカリカリしていた。
「明日から警備の工事するの知らないんじゃない? 塀の木戸なんかも直して、終わったらできるだけ早くグーちゃんを迎えに行くよ」
翼がなだめるように優しく言った。
翌日は月曜日だ。 翼だけでなく滋にも仕事が待っていたが、立場上出社を遅らせることができるので、その晩は千登勢夫人と泊まっていくことにした。
「玄関灯はずっとつけておこう。 灯りが見えたら泥棒も入りにくいだろう」
「今度は父さん達が心配になった」
翼がぼやくと、母の千登勢が笑ってポンと背中を叩いた。
「心配ないって。 昨日の今日だもの、泥棒も用心して、そんなに早く来ないわよ」
しかし、残念なことに千登勢の予想は外れた。
その晩、ちょうど零時を回ったころ、不意に大声が響き渡った。
「捕まえた!」
ぐっすり寝ていた滋と千登勢夫妻は、ねぼけ眼で飛び起きた。
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月の歯車
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