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夏は謎  -104- 遺産の謎






 おじゃま虫の和一郎がいるため、翼の両親は敏美にあまり立ち入ったことを訊けなかった。
 ふたりとも内心は、翼から簡単に知らされただけの未来の嫁について好奇心一杯のはずだが、和一郎も敏美を意識しているらしいと知らされているので、彼に気を遣って、仕事の話をするのがせいぜいだった。
 やがて我慢ができなくなったらしい。 敏美がビールの代わりを取りに行こうとすると、一緒に席を立とうとした翼を制して、千登勢が手伝うといって一緒に客間を出た。
 冷蔵庫のある台所へ進みながら、千登勢は親しみのこもった声で話しかけた。
「敏美さん、翼を選んでくれてありがとう」
 たちまち敏美の顔が上気した。
「えっ……あの、こちらこそ……」
「それに、あの子を立ててくれてありがとね。 男だから立てるって意味じゃなく、和一ちゃんより大事に思ってるって見せてくれたでしょ? いつもバカにされてるから、ああいうの嬉しかったと思う」
「和一郎さんってジャイアンなんですか?」
 千登勢はププッと吹いた。 見かけもハートも若々しい母だ。
「そうね〜相手が女だと愛想がいいけど、男だと踏んづけようとする人よ。 ああ見えて力が強いし、見た通り口がうまいし」
 千登勢夫人は冷静で頭がいい。 あなどれない、と敏美は感じ、好かれたからといって調子に乗らないようにしようと自分に言い聞かせた。


 ビール缶を出している最中、千登勢はさらっとした口調で尋ねた。
「伊都子さんのお孫さんってほんと?」
 敏美の手が宙に浮いた。
「はい」
 千登勢は、あっという間に水滴のついたアルミ缶に目を置いたまま、ゆっくり頷いた。
「お義母さん、やっとその気になったのね」
 その気? なんのことだ?
 敏美はなんとなく不安になった。
 千登勢は台所のサイドテーブルに両手を置き、ちょっと考えてから話し出した。
「もっと早く、ちゃんと言うべきだったと思うんだけど、お義母さんからは話しにくいでしょうから、私が言うわ。
 うちのお義父さん、つまり木元直昭は、あなたにも遺産を残したのよ」


 それからたっぷり一分、沈黙が続いた。
 敏美はただ、あっけに取られていた。 祖母の伊都子と直昭氏は、確かに昔、恋人同士だったかもしれない。 だが、敏美は伊都子の孫というだけだ。 直昭に逢ったことさえないのだ。











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