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夏は謎  -102- 留守役は






 敏美は夫妻に、和一郎が先客でいることを伝えた。 すると父の滋が苦笑いして呟いた。
「施設に入る世話は手伝わなくて、留守番だけはしたいって? 相変わらずだな、和一ちゃんは」


 三人が客間に入ると、和一郎は窓辺に立って庭を眺めていて、急いで振り返った。
「あ、こんにちは滋おじさん、千登勢おばさん」
「やあ、いつも元気そうで」
「そうでもないんですよ、この前の発表会でちょっと張り切って練習しすぎちゃって、腰のこの辺が痛くて」
「まあ、気をつけてね。 ぎっくり腰の初期かもよ」
 三人は親戚として砕けた話を始めた。
 そこで、敏美は夫妻にも茶菓子を出し、仕事に行く時間だと説明して客間を後にした。


 由宗クン用の時間が空きになっているので、その時間を利用して、敏美は翼に電話連絡した。
 彼は既に咲子の留守邸に戻っていて、電話の向こうから賑やかな声が聞こえた。
「敏美? ちょっと待って。 廊下に出るから」
 翼が低く応じ、間もなくドアの閉まる音がして、話し声が聞こえなくなった。
「玄関前がきれいになってて驚いたよー。 暑いのに頑張ったね。 やったのは敏美だって親にバッチリ刷り込んでおいたからね」
「あれ、ゴマすりだから」
 照れながらも、敏美は翼の気遣いがとてもうれしかった。
「疲れただろ? 道端でぶっ倒れるなよ〜」
「だいじょうぶ。 日々、犬と走って鍛えてるし」
 そこから翼は本題に入った。
「それで、親父たちと和一ちゃんが今、攻防戦に入ってるんだ。 和一ちゃんはここに住みつきたいし、こっちはありがた迷惑だしさ」
「家と敷地を相続するのはご両親で、次にはあなたでしょう? 和一郎さんには関係ないんでは?」
「理屈は和一ちゃんには通用しないの。 ていうか、情に訴えるのが得意でね」
「広い家に住んでみたいって気持ちは、わかるんだけど……。
 で、どちらが優勢?」
「親父。 女性の留守宅に男が入り込むのはまずいって言ってる。 グーちゃんだってれっきとした女性だもんな」
「当然」
 敏美は、ひとまずホッとした。










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