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夏は謎  -97- 昔の設備






 佐喜子が車椅子に乗るようになってから点検しないのをいいことに、誰かが庭の小屋を倉庫代わりに使っていたのだ。
 敏美が玄関に戻ると、翼が立って辺りを見回しているところだった。 スクーターが停まっているのに敏美がいないので、心配していたようだ。
 竹やぶの中から彼女が姿を現すと、翼はホッとした様子で笑顔を向けた。
「現場、見に行った?」
「すごいね、あんなに掘っちゃって」
「信じらんねーよな、人の庭で」
 仲良く肩をぶつけるようにして家に入った。 古い建物だから廊下まで冷房が届かない。 外と同じムッとした熱気の中を歩いた。
「警察が調べて、何て言ってた?」
「うーん、小屋には何か隠してたんだろうって」
「地面の方は?」
「そんなに深く掘ってない。 三十センチぐらい」
 三十センチでは死体は埋められない。 敏美は胸をなでおろした。


 結局、警察が調べても、夜中の庭で、少なくとも三人の大柄な男が何か運び出したらしいということしかわからなかったようだ。
 小屋にもともとあった園芸用のスコップや枝切り鋏は、すべて一番上の棚に放り上げられていた。 特に失くなった物はないし、あったとしても大した価値はなかった。
「罪と言えるのは無断侵入しかないんだ。 小屋にしっかりした鍵取り付けて、早く由宗を戻したほうがいいと言われた。 だからさっき、こんな大きな錠を買ってきて、がっちりかけた。 でも暗証番号忘れそうだよ」
「またこっそり入り込むと思う?」
「どうかな。 隠してた物を慌てて持ち出したように見える。 だけど、黙って庭を使うずうずうしい奴らだから、ほとぼりがさめたらまた忍び込むかも」
 なんか不気味だ。 犯人の正体がわかるまで、やっぱり佐喜子夫人を一人で置いておくわけにはいかないんじゃないかと、敏美は思った。



 敏美が仕事から帰ったので、今度は翼が出かけて、いい介護ホームを急いで探してくることになった。
 敏美は佐喜子を守るために残った。 夫人は昨夜に比べるとだいぶ元気を取り戻していて、ぽつぽつと庭のことを話してくれた。
「昔はあの辺をイモ畑にしてたの。 さつまいもはとても育てやすいのよ。 戦時中でいい肥料がなかったから、味は悪かったけど。
 それに、東のほうには防空壕〔ぼうくうごう〕を掘ったの。
 防空壕って知ってる? 連合軍が空から爆弾を落とすから、夜は電気にカバーかけて暗くして、危ないときには庭に掘った穴に逃げ込んだのよ」









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背景:月の歯車
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