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夏は謎  -95- 泥棒登場






 敏美はゆっくり起き上がって耳を澄ませた。
 カサコソいう音は続いている。 たまに、押し殺した囁き声が混じって聞こえた。
 敏美は窓を見た。 雑音はどうも家の中ではなく、外から響いてくるようだ。
 もっと窓際ににじり寄ろうとしていると、パジャマの袖を掴まれた。 一瞬ぎょっとなったが、目を覚ました翼が引きとめようとしたのだと気づいて、すぐ落ち着いた。
 彼は半身を起こすと、敏美の耳元で囁いた。
「ほんとになんか音がするな」
「うん」
「一人で動いちゃ駄目だ。 声がするから、向こうは二人以上いる」
「庭のどこかみたい」
「そうだな」
「警察に知らせる?」
「オッケー、俺かける」
 翼はそう言うと同時に、枕もとの携帯に手を伸ばした。


 四分ほど経って、二人の警官が到着した。 ライトもサイレンもつけずに来たが、翼と連れ立って庭を捜索すると、侵入者たちは逃げ去った後だった。
 しかし、確かに誰かがいた。 母屋から一番遠い園芸用具置きの小屋の裏手で、地面が広く掘り返されていた。


 土は掘りたてで、まだ黒々としていた。 物置小屋の扉も開けっ放しになっていて、スニーカーらしい波型の足跡が、奥までたくさん残されていた。
「確かに誰かが入り込んだようですね」
 若いほうの警官が強力ライトで近くをくまなく照らしながら言った。
「お宅は六月にも泥棒に入られましたよね?」
「ええ、子供が二階に入ろうとして落っこって、足折ったんです」
「この足跡は子供じゃない」
 もう一人の警官が、大きな靴跡を覗きこんだ。
「僕の靴よりデカい。 それに、これとこれじゃ模様が違う。 二人……いや、三人はいたようですね」


 朝になったら鑑識が来るということで、警官たちはひとまず帰っていったが、侵入者たちがまたこっそり戻ってきたときの用心に立ち入り禁止のテープを張り巡らせ、点滅ライトをひとつ置いていった。
 翼は屋敷に戻り、佐喜子と彼女を守るために付き添っていた敏美がいる寝室に入った。
「グーちゃん、信じないでごめんな。 泥棒だか何だか、ほんとに入り込んでたよ」
 ベッドの背面に寄りかかって座っていた佐喜子は、胸に手を当てて目をつぶった。
「おー、こわ」









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背景:月の歯車
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