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夏は謎  -81- ばれた!





 翼も祖母がいつもより弱々しいのを感じ取ったらしい。 デイケアの人が来るまで傍にいると主張した。
「いいのよ〜そんなに気遣わなくても」
 そう言いながらも、佐喜子は嬉しそうだった。 やはり嫌な事件が起きて不安がつのるのだろう。 どうせなら、遅めのお茶会にしたいと言い出して、敏美もさっそく準備に参加した。


 ダージリン紅茶を入れ、クラッカーに生クリームやカリカリベーコン、チョコレートチップなど好きな物をいろいろ載せてパクパクやっているうちに、客間の空気はすっかり明るくなった。
 見ると、佐喜子の顔色もずいぶんよくなってきた。 今日は孫の翼だけでなく敏美もゆっくりできるというので、引出しからトランプを見つけてきて、『二十一』(=ブラックジャック)をやりたがるぐらいに。


 見かけだけでなく、頭もすっきりしてきたらしい。 トランプが三ゲームほど終わったところで、カードを集めて山にしながら、不意に佐喜子が口にした言葉に、残りの二人は意表を突かれた。
「ねえ、あんた達、いつ深い仲になったの?」
 反射的に、翼が口走った。
「やめろよ何言ってんの?」
 すぐに応じる代わりに、佐喜子は前の若者たちを交互に眺め、いたずらそうな目付きをした。
「でも図星でしょ? これだけ生きてると、似たような経験を何度もしてるのよ。 だから、ピンと来たの。 さっきからの二人の様子で」
 思わず翼の視線が敏美の横顔に泳いだ。 それで佐喜子の信念は決定的になった。
「ほーらやっぱり。 どうして言えないの? 菅原さんのお家の方がお付き合いに反対?」
 このまま行くと、どんどん祖母の考えがあらぬ方向に行く。 翼は観念して、真実を話すことにした。
「まだ話してないよ。 うちの親にも。 正式に認めてもらってから、グーちゃんにも言うつもりだったんだ」


 佐喜子がムッとしたのが、傍目にもわかった。
「グーちゃんにも? にも?」
「ごめん。 一番喜んでくれるのがわかってたから、まず親のほうを片付けて、それからゆっくりって思って」
 翼が守りに回ってガタガタし出したのを、佐喜子はあっけに取られて見つめた。
「待ちなさいよ。 私が喜ぶって、もしや……」
「結婚するって決めた」
 とうとう翼は順番を諦めて、陥落した。













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