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夏は謎
-78- 番犬の謎
翼は気が咎めている様子で、しきりに眉を右手でこすった。
「グーちゃんは、考えたらもう八十近いんだよな〜。 車椅子だし、あんなデカい不便な家で一人暮らしは、もう無理だったんかも」
「佐喜子さんお元気だった。 料理もうまいし、頭もしっかりしてる。
それに、昼はほとんど毎日私が行ってたし、夜にはケアマネージャーの人が見回ってくれてたんでしょ? 翼も毎週のように尋ねてたじゃない?
ほったらかしたからこうなったわけじゃないよ。 今は睡眠薬って簡単に買えないんでしょう? まず、佐喜子さんがお医者に出してもらってたかどうか、調べよう」
敏美が懸命に頭を使って考えたことに、翼も納得した。
「そうだよな。 えーと、たしかグーちゃんの掛かりつけの医者の名刺もらってたはず」
翼がカードケースををポケットから出して、せわしなく探し始めた。
二人でいったん病院の建物を出て、電話で問い合わせたところ、山川医師は佐喜子夫人に一度も睡眠薬を処方したことがないのがわかった。 やはり間違いや自殺願望で薬を飲んだとは考えられない。
翼は携帯をしまうと、顔をくしゃくしゃにして、近くにあったバス停留所のベンチにドンと座った。 敏美も横に腰を降ろして、真剣に彼の顔を見やった。
「佐喜子さん家の玄関は、ちゃんと鍵がかかってた。 子供が盗みに入ったから防犯を強化してて、忍び込むのは難しくなってる。 これで、どうやって佐喜子さんに薬を飲ませたと思う?」
翼は足を投げ出して、しかめっ面になった。
「グーちゃん本人に聞くっかないな。 誰かが尋ねてきたか、いつもと違うことが何かあったか」
ということで、二人は病院に戻ったが、佐喜子はまだ昏睡状態のままだった。
翼は早退の許可を取ってきたが、敏美は次のお得意さんのところに行かなければならなかった。 時計を見ると、もう四十分以上遅れている。 バスに乗って行こうとした敏美の前に、翼が車を回して持ってきた。
「俺のばあちゃんのせいで遅れたんだから、送ってくよ。 遠慮してるともっと遅くなるよ」
それで、ありがたく敏美は彼の車に乗り、二人は話を続けた。
「俺考えたんだけど、睡眠薬ってのが納得いかないよなー。 眠らせて、どうするんだ?」
「そうだよね。 鍵かかった家の中でしょ? その間に外から入って泥棒できるわけないし」
「第一、由宗がいる。 あいつ見かけより賢い。 ドロボーが忍び込んできたら、吠えて追いつめるぐらいやると思う」
見かけも結構賢そうだって、と、敏美はかわいい由宗を心で弁護した。
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