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夏は謎  -70- 後の祭り





 すると、和一郎は道路の広い場所を選んで路肩に寄せ、また停車させてしまった。
「あと五百メートル。 一分じゃ何も話せないよ」
「でも……」
 敏美が抗議しようとすると、和一郎は手を上げて遮った。 真剣な顔になっていた。
「君を追っかけちゃいけないというんなら、せめてあっちをゲットさせてくれよ。 もちろんただでとは言わない。 うちの稽古場に飾らせてくれたら、月に三万……ううーん、五万まで出せる。 な? これから親戚になるんだから、ぜひ頼むよ〜」


 敏美は、あっけに取られた。
 和一郎が何のことを言っているのか、見当もつかない。 飾るだけで月に五万も払いたい貴重品とは、いったいどんなものなのか。
 おまけに、こっちに何の関係があるというんだ!


「まったく話が見えないんですけど。 飾るって、何です?」


 今度驚いたのは、和一郎のほうだった。 まず目が大きくなり、それから顎が落ちた。
「え? ええーっ? それはどういう……」
 そこで彼は、危うく踏みとどまった。
「わかった。 君より先に聞くべき相手がいるみたいだ。 今の話は忘れてくれ」
 そんな〜。
 敏美は完全にムッとなった。
「訊いてるんだから教えて。 何を飾りたいって?」
 和一郎は切なげに吐息をつき、額をこすった。
「あーあ、俺のドジ。 まさか君が知らないなんて、こっちも知らなかったんで」
 彼は自分からは、テコでも言いそうにない。 敏美は素早く頭を巡らせた。
 貴重なもの、貴重品…… 今敏美の周囲にいる人物で、そんな物をどこかに隠していそうなのは、ただ一人。
「佐喜子さんに関係あり?」
 和一郎はシートに引っくり返って、車の天井を見上げた。
「他にいないよな」
「佐喜子さんが翼に譲る物?」
「翼だって?」
 和一郎はいまいましげに呟き、敏美に流し目をくれた。
「あいつの線じゃない。 別の流れだ」
 そう言われて、敏美は一つ心当たりを思い出した。
「あの、知ってるかどうかわからないけど、私の祖母につながること?」
 間髪を入れず、和一郎が反応した。
「なんだ、事情聞かされてたか」










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