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夏は謎
-60- 急な告白
それからチラシを見て、ミラノ風ピザを選び、注文した。 そして、来るまでの間、ウィーをして遊んだ。
「これにはテレビを使わなくちゃね」
「うー、ずいぶん久しぶりだー」
それでも翼は、顔を上気させて楽しそうだった。
やがて配達されたピザを食べ終わる頃には、ビールの軽い酔いが心地よく回って、二人はすっかりいい気持ちになっていた。
翼は普段の倍ぐらい口数が多い。 どうやら酒癖は、佐喜子の血を濃く継いでいるらしかった。
「ゴミ入れ? そこの隅にあるよ。 あーっ、中身バッチリ入ってる。 見るなーっ」
慌てて立ち上がって、彼は屑篭の中にあった朝食の食べ残しを台所へ捨て直しながらぼやいた。
「敏美が来てくれると初めからわかってたら、ちゃんと片付けといたんだけどな」
「あー、じゃ思いつきで誘ったんだ〜」
ちょっとフワフワした気分になっている敏美がからかうと、翼はまともに取って、真剣な顔になった。
「ちがう。 そうじゃない。 ほんと言うと、いつも誘いたかった。 オレこうやって一応家あるし、仕事もしてるし、敏美のことすごい……好きだし」
ズンと来た。 心臓の周りが燃えるように熱くなって、幸福感に変わり、敏美の全身に広がった。
でも、そこで翼が言葉に詰まってしまった。 中途半端な沈黙が重くて、敏美は小声で訊いた。
「すごい、と、好き、の間がなんで空くの?」
「胸バクバクだから」
低くかすれた声で返すと、翼は両手を出して、敏美の手を両方取った。
「初めてだし、リハーサルなしだから」
この率直さが、敏美の気持ちに一番共鳴する彼の長所だった。 やたらに見栄を張らない。 卑屈でもない。
翼は少し肩を怒らせ、決意をつけて残りを言った。
「結婚しよう。 ここに敏美がいて、オレがいて、全然違和感ないだろ。 これからもっと力合わせて、頑張って生きていこう」
素朴な言い方が、決め手になった。 祖母の伊都子はともかく、他の家族には翼のことを話していない。 まだ未紹介なのが心の片隅で気になったが、好きな人に申し込まれた喜びのほうが遥かに大きかった。
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