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夏は謎
-59- 凄い遺産
「ローン大変でしょう?」
築八年で、支払日が来るたびに愚痴が出る実家のことを思って、敏美は翼を気遣った。
すると彼は、さっぱり玄関の戸を開け放つなり、手短に答えた。
「一括払いにしたから」
うおー〜〜1
敏美は思わず、少し高いところにある翼の顔をまじまじと見つめてしまった。
「すご〜い」
「ジーさんの遺産貰ったって言っただろ? 親は早く建て過ぎだって反対したけど、勤めたら独立するって決めてたから」
そう言って、翼はニヤッと笑った。
「一人っ子なもんで、実家にいると干渉されて大変なんだよ」
それから、ふざけて胸に手を当てて一礼した。
「学校友達と会社の同僚は来たことあるけど、女の人がここ来たのは、母以外では敏美が初めて。 さあどうぞ、お入りください」
それは、気持ちのいい家だった。 奇をてらったところはなく、普通サイズの玄関から廊下が伸びていて、横に階段があり、その奥にトイレがあるという、わかりやすい間取りだ。 ただ、あちこちに木材をふんだんに使ってあるため、落ち着いた感じが好ましかった。
外はまだ太陽の残照があって明るかったが、家の中は薄暗く、昼の熱気が篭もっていた。 翼はまず玄関を明るくし、スリッパを出してから、先にリビングに入って照明をつけた。
「冷えたビール飲む〜?」
声が響いてきたので、敏美も急いで返事した。
「飲む〜」
居間にある主な家具は、巨大なソファーと大きなプラズマテレビと、並サイズのテーブルだった。 そのテーブル上に、翼は冷え冷えのビール缶とマグを置き、楽しそうに敏美を促してソファーに座った。
「テレビ見る?」
「ううん、家でもあんまり見ないから」
「オレも。 ちょっとニュース見るぐらいだとラップトップで充分だし」
「うん」
二人はビールを注いだマグを持ち上げて、乾杯した。
「このデカいテレビは、親がくれたんだ。 新築祝いだって。 でもほとんど使わなくて、もう時代遅れになってる。 買い換えるのもバカらしいし、正直邪魔な存在」
ビールの泡でヒゲができないよう気をつけながら、敏美はベージュの壁に目をやった。 すると、大きなカレンダーが山の写真なのに気がついた。
「山登り、好き?」
つられて翼もカレンダーを見た。
「いや。 でも冬山でスノボーするのは好き」
「私もスノボできるよ」
共通の趣味がわかって、敏美は嬉しさに胸が弾んだ。
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