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夏は謎  -33- 星の名前




 中に入っていたのは、英文のパンフレット数枚と小さな袋、それにメッセージカードだった。
 カードに目を通してみて、敏美は最初、意外さに驚き、それから次第にじんわりと気持ちが温かくなった。
「星の、命名書?」
「そう。 好きな名前つけていいんだよ。 ちっこい星だけど、ちゃんと見える大きさで」
──見えるんだ、実際に──
「すごいね〜。 これ、最高だね」
 不思議な気持ちだった。 どこまでも続く宇宙に、自分が名前をつけた小さな星がある。 別に所有権とかいうのじゃないけど、この世に生まれてきた証がひとつ増えたような、誇らしい気分になれた。
 敏美の喜びが伝わったに違いない。 翼もわくわくした表情になって、書類の枠を指差した。
「ここに好きな名前をローマ字で書いて、送るんだ。 すると証明書が送り返されてくる」
「わあ、どんな名前にしよう」
「ゆっくり考えなよ。 登録日も選べるんだ。 誕生日とか、大事な記念日とか」
「ありがとう。 これまで貰った中で、一番夢のあるプレゼントだわ」
 子供のころに童話を楽しんだ人なら、このプレゼントはきっと心に響くにちがいない。 敏美は、形ではないものをくれた翼に、一段と深い親しみを感じた。


 帰り道は、往きより一段とゆっくりしたものになった。
 由宗も、運動が足りたため、もう文句を言わず、並んで歩く二人に寄り添って、機嫌よく歩を運んでいた。
 箱を大切に手に持って歩いているうち、敏美は思いついた。
「私だけ貰ったら不公平よね。 翼の君、誕生日はいつですか?」
「まだ言ってるのー?」
 くすくす笑いながら、翼は教えてくれた。
「七月八日。 覚えやすいんだ」
「もうじきね。 私もいい物見つけないと」
「くれるの? ほんとくれる? オレ一人っ子で、友達もほとんど男だから、あんま貰ったことないんだよね。 貰えるってだけで嬉しい」
「その顔で?」
 敏美は思わず口走った。
「バレンタインとか一杯貰ってそう」
「学校では禁止だった」
 翼は真顔で答えた。
「不公平だからだって。 でも世の中不公平なもんだよな。 頭のいい奴の脳みそは、もらえないだろ?」
 魅力的な容姿もそうだ、と、敏美は密かに考えた。 









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