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夏は謎
-29- 似た男性
その他、高校と大学の友人が三人、お祝いメールやビクトリアカードをくれた。 勇吾の悪ふざけはあったが、全体的に楽しい誕生日だった。
翌日も空に雲がひしめいていた。
しかし、相当高い雲で、雨が降る心配はなさそうだった。 休日だから何となくのんびりした風情の街を、敏美は軽いエンジン音と共に走った。
いつものように、木元家に近づいていくにつれて、敏美はなんだか落ち着きを失ってきた。
今日は昨日ほど楽天的な気持ちになれない。 翼は、これまで会った男子の中で一番ハンサムだし、ちょっと風変わりだが魅力もある。 冗談で言ったとおり、『ツバサの君』と呼んでもおかしくないぐらいだ。
それに比べて、自分はキレイなんて褒められたことはない。 カワイイと言われたことは二、三回あるが。
私と付き合いたがるなんて、やっぱ裏があるんじゃないの? もしそうなら嫌だなぁ──つい思いにふけって、ハンドルがおろそかになった。 信号のない四つ角で、横をろくに見ずに突っ切ろうとした。
鋭くホーンが鳴り、敏美は我に返った。 左の小道から出てこようとした車が、急いでブレーキをかけるところだった。
やば!
敏美はヘルメットを被った頭を下げ、澄んだ声で詫びた。
「すいませーん」
それを聞いた運転者は、軽く手を上げて応じ、先に通るよう合図した。 ところが、敏美は彼の顔に目が釘付けになって、あやうく発進しそこねるところだった。
上品なスチールグレーの車の運転席に座っている男性は、彼女の目を奪うほど、翼にそっくりだったのだ。
妙な気持ちで三ブロックほど愛車を走らせた後で、敏美はハタと思いついた。
──そうだ、あの人、ポスターの日本舞踊の人じゃない?──
きっとそうだ。 町内会の掲示板に張ってあったのだから、この近くに住み家か稽古場があるのだろうし、あれほど似た人が他にいて、偶然通りかかったとは考えにくい。
それにしても上等な車に乗ってたな〜、と、敏美は思い起こした。 年は幾つぐらいだろう。 たぶん翼より上だと思う。 顔は若々しいが、どこか貫禄があった。
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