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夏は謎
-24- 意外な声
番号とメールを教え合った後、二人は微笑み交わして別れた。
玄関を出ても、敏美の胸はまだどきどきしていた。 耳の中でまで、血管がトクントクンと鳴っている。 こんなに気持ちが高ぶったのは、小学校低学年のとき両親に連れられて、アイスショーを見に行ったとき以来だった。
浮き上がった気分のまま、スクーターのところへ行って、気づいた。
キーがない!
いつも入れている上着のポケットを二回探った後、ようやく思い出した。 さっき携帯電話を出すときチェーンが引っかかったので、一緒に引き出して下駄箱の上に載せたのだ。
ケータイだけポケットに戻して、キーチェーンは忘れていた。
玄関に戻るのは、格好悪かった。
できるだけガタピシさせないようにして、そーっと引き戸を開けて覗くと、鍵束はちゃんと板の上に載っていた。
敏美は胸を撫でおろし、戸の隙間から体を入れて、腕を伸ばした。 中の人に気づかれないよう、こっそり取って帰るつもりだった。
そのときだった。 廊下の奥から声が響いてきたのは。
「だから言っただろう? そんな気ないって」
翼だった。 彼が荒い調子でしゃべるのを、敏美は初めて聞いた。
客間の中で、佐貴子が声を上ずらせて叫び返した。
「あんたがあの子を本当はどう思ってるか知らないけど、私は譲りませんからね! 由宗を引き取るのを承知したのは、このためだったんだから!」
「遠まわしに何のミッション計画してんだよ!」
「何よミッションって」
「だから……ああもうどうでもいいよ。 オレを操ろうとするのは止めてくれって言ってんの。 グーちゃんは勝ったんだから、それでいいでしょう?」
そこまで聞いて、敏美は肩の筋肉がよじれるほど細心の注意を払ってキーの束を引き寄せると、ゆっくり玄関の戸を締め切って、逃げ出した。
さっきとは違う意味で、心臓が不規則に鳴っていた。
──あの子って、私のことだ。 だって、由宗クンをそのために引き取ったと言ってたもの。 そのためって……何のため?──
スクーターを大門の外へ引いていきながら、敏美は顔が洗いすぎたときのように突っぱるのを感じていた。
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