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夏は謎
-23- お茶の会
その日は佐貴子もなんだかうきうきしていて、翼と三人で始まった短い[お茶の時間]は賑やかになった。
「こうやってお紅茶飲んでると、直昭〔なおあき〕さんと待ち合わせした喫茶店を思い出すわ。 ステンドグラスがこことここにあって、椰子の木があそこら辺にあってねぇ。 もうあの店もなくなってるでしょうね」
「喫茶店なら、まだあちこちにあるよ」
皿に盛りつけられたクラッカーにレーズンバターを載せながら、翼が言った。
「そう? 前世紀の遺物ってわけじゃないのね」
佐貴子はそれを聞いてホッとした様子だった。
「フランス風にカフェとか、名前は変わってるかもしれない」
「今でも飲み物一杯でずっとねばっていられるの?」
「そうなんじゃない? 入ったことないからよく知らないけど」
「翼が行くのははどんな店?」
ほおばっていたクラッカーを飲み込んだ後、翼はあっさり答えた。
「ほとんど行かないな、食べ物屋には。 たまに電話して、届けてもらうことはある」
「ピザとか?」
「うん。 他に寿司とか、セットになった弁当」
「おいしいの?」
「そうだね、けっこううまい。 ただ最近、寿司は高くて」
「昔から上等なお寿司は高かったわよ。 あら、なんだか私も食べたくなった」
「晩に食いなよ。 オレ注文したげる」
「そう? じゃ頼むわ」
敏美はあまり発言せず、祖母と孫のなごやかな会話を聞きながら、クリームチーズやハム、生クリームなどトッピングしたクラッカーを口に運んでいた。 十二時前に簡単な昼食を取っただけだから、そろそろ空腹になっている。 味つけのいい木元家のおやつは、つい食べ過ぎてしまうので要注意だった。
十五分があっという間に過ぎ、敏美は骨董品ぽいのに意外なほど正確な壁掛け時計を見て立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
「あら、もう行っちゃうの?」
毎度のことだが、佐貴子が残念そうに高い声を出した。
「グーちゃん、菅原さんは仕事だから」
「それはわかってるけど、明日は別の人が担当でしょ? ちょっと寂しいのよ」
「その人とは仲良くないの?」
「だって彼、男の人だもの」
高辺〔たかべ〕さんのことだ──いい人なのだが口数が少なく、仲間内では[壁さん]と言われている先輩を思い浮かべて、敏美は内心ニヤリとした。
翼は玄関まで送りに出てきた。 そして、真剣な面持ちで敏美に尋ねた。
「明日、電話していいかな?」
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