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夏は謎  -22- お互いに





 敏美は今度こそ、えーっ! と言いたくなったが、言えなかった。
 それどころか、喉から額までカッと熱くなってきた。
 いやだ〜、きっと真っ赤になってるんだ──そう気づくと、ますます顔が燃えてくる。 敏美は、目の前の翼を見つめたまま、立ち往生した。


 翼も黙ってしまった。
 やがて敏美は見て取った。 自分の反応ばかり気にしていたが、どうやら彼も上気しているようだ。 やや浅黒い顔に変化が起きていた。
 それで少し余裕ができて、敏美は彼の提案に答えようとしたが、喉が詰まって妙な声が出た。
「じょ……」
 慌てて言い直した。
「冗談?」
 翼は目を大きくした。
「なんでー? この上なくマジだよ」
「はぁ〜」
 また変な吐息が出たので、敏美はあせって追っかぶせるように言葉を継いだ。
「いやなんか、展開が早いなと思って」
「知り合ったばっかりってこと? オレ急ぎすぎかな」
「いや、そうとも……」
 言えないけど、と続けかけて、支離滅裂なのに気づき、敏美は口をつぐんだ。 自分を蹴飛ばしてやりたいぐらい、ドジだと思った。


 幸い、翼はすぐ立ち直った。 いじけない性格なのだ。
「試してみようよ。 一回どこかへ行って、楽しければまた行く。 どう?」
 たぶん楽しいに決まっている。 一緒に歩くだけで、こんなに浮き浮きした気分になる人は、初めてだもの。
 だからかえって心配だった。 こっちが一方的に好きになるのが。
 木元翼は魅力的だ。 職場が男性の頭数優勢で、適当な相手がいないにしても、気さくでしかもウザくない彼なら、楽に恋人を作れそうだ。
 いつも動物にまみれて、自由時間もろくにない地味な女よりもずっと素敵な、しゃれた美人を。
「いいけど、あまり期待しないでね」
 敏美はダミ声で言い、言った後でまた自分を蹴とばしたくなった。
 すると、翼はほっこりした微笑を浮かべた。
「それはお互い様だな。 いわゆるデートスポットなんて、なんも知らないから」
「私も知らない」
 なぜか競争気分になって、敏美は早口で答えた。












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