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夏は謎
-21- 付き合う
敏美は、仕事とオフをきちんと分ける性格だった。 だから翼と一緒に舗道を歩いていても、話のかたわら、目は常に由宗に置いて、ちゃんと運動になるよう気を配っていた。
「この犬ぐらいになると」
急ぐ敏美に合わせて早足になりながら、翼が言った。
「自転車で引っ張ったほうがいいサイズだな」
「やったことある?」
敏美が訊くと、翼は首を振った。
「いや。 訓練しないと、こっちが倒される」
「そうね。 由宗クンは見かけ以上に力があるから」
すぐ自分の名前を聞きつけて、由宗が振り向き、目を細くしてニパッとなった。
「愛嬌あるね〜由宗クンは」
「そうやって褒めるから、ますます調子に乗る」
「そんなことない。 穏やかよ〜他の犬と比べても」
「本気で怒ると結構すごいぞ。 女性の前だからネコかぶってるんだ」
「犬がネコかぶるの?」
「三匹分ぐらいは」
笑いながら、敏美は由宗をリードして、四つ角を右に曲がった。
「今日は会社休み?」
帰り道に尋ねると、すぐ答えが返ってきた。
「有給」
「あ、貴重だね」
「全然。 溜まってたんで取れ、取れ言われて」
「まとめて取って、旅行とか山登りとか」
「そうね、ジジーになったら行くかも」
「えー」
「そうだよ。 最近は老人の登山が流行ってるんだ。 老人というか、中高年の」
「ふーん」
イッコさんも足が丈夫なら行きたいだろうか。 それに佐貴子さんも? 敏美は二人が登山靴で坂道を上っているところを想像しようとしたが、できなかった。
「で、敏美のお方は休みに何する?」
敏美のお方って…… 閉口しながら、敏美は考えた。
「だいたいは実家に帰るかな〜」
「デートは?」
「そんなもんしない」
心なしか、否定する声が大きくなった。
「すりゃいいじゃん」
「だって相手がいない」
「ほお」
翼の目がキラリと光った。
「じゃオレ、立候補するよ」
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月の歯車
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