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夏は謎
-15- 心細くて
いつも背筋を伸ばしてシャンとしている佐貴子のこの変わりように、敏美はびっくりして、スニーカーを慌てて脱いで駆け寄った。
「大丈夫ですかー?」
傍にすぐ来てくれた敏美の手に、佐貴子はすがりついた。 驚くほど強い力で。
「怖かったわ〜。 泥棒が入ってたのよ。 それも何回も」
「あ、はい。 表で聞きました。 男の子がストレッチャーで……」
「そうなのよ!」
佐貴子の細い目がいっそう糸のようになり、目尻から涙が盛り上がった。
「冒険してるつもりだったんですって。 裏の杉の木から庇に飛び移って、それから窓枠に手をかけて忍び込んでたの。
外は防犯してるけど、家の中はどこも開けっ放しでしょう? あの子があちこち覗いて探ってたと思うと、背筋がゾッとして」
うなだれて小さく丸まっている佐貴子を見ると、敏美の胸に温かい思いが湧いてきた。
彼女はたぶん、実家の祖母のイッコさんと同じぐらいの年頃だ。 それに二人とも足が弱っている。 走って逃げることもできないのに、侵入者がいたとわかったら、どんなに不安だろう。
気がつくと、敏美の手は自然に伸びて、佐貴子の背中をそっと撫でていた。
「もう捕まったから大丈夫ですよ〜。 それに犯人は怪我してたから、しばらく冒険ごっこなんてできないですよ」
佐貴子は鼻をすすり、指で涙を拭った。
「どうもガサゴソと音が聞こえるから、リフトで階段を上がったの。 そしたら、上の廊下の窓が開いてて、顔が覗いてたのよ〜。
思わずキャッて言ったら、向こうもびっくりして逃げようとして、足を滑らせて落っこったの。 右足が折れたらしいって、お巡りさんが言ってたわ」
「だから逃げられなくて、捕まっちゃったんですね」
「ええ、そう。 うちの人のライターとか象牙の小さな置物とか、せっせと盗んでいたんですって。 ほんとに、何て子でしょうね」
佐貴子はまた涙声になった。
しばらく慰めた後、由宗と散歩に行こうとしたが、佐貴子はまだ不安で引き止めた。
「もう少しいて。 先にお紅茶作るわ。 飲んでから入っても由宗は大丈夫よ。 昨日は雨だったでしょ? だから翼に車で連れてってもらって、屋根のあるドッグランで半日も遊んだんだから」
「すごい」
敏美は胸を撫で下ろした。 運動好きな由宗は、どしゃ降りの雨の中をレインコート着てしょぼしょぼ出かけるより、ずっと楽しい思いをしたらしい。
「由宗クン、よかったね〜。 じゃ、ちょっとだけ待っててね」
期待してハッハッと息を吐きながら玄関口に座っていた由宗は、軽く上目遣いになって、クゥーンと低く鳴いた。
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月の歯車
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