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夏は謎  -14- 泥棒騒ぎ




 いったい何ごとだろう。
 よく見ると、近所の人らしい野次馬が三人ほど、パトカーの向こう側に立って話し合っていた。
 敏美はスクーターを押しながら彼女たちに近づき、小声で訊いた。
「すいません、何かあったんですか?」
 ふっくらしたアンパンマンのような顔の奥さんが、目をしばたたかせて教えてくれた。
「泥棒が入ったんですって」
「木元さん家に?」
 敏美はひどく驚き、思わず態度に出してしまった。 周囲はピカピカのお屋敷なのに、なぜわざわざボロっちい家を選んで侵入するのか。
 長屋門に目をすえたままの痩せた四十代が、アンパンマンの言葉に更なる説明を付け加えた。
「木元さん結構用心深くて、警報装置つけてたんだけど、二階の窓の鍵が一箇所ゆるんでたらしいわ」
「まるでサルみたいな子よね〜」
 子?
 目を丸くした敏美に、アンパンマンが続けた。
「中学生。 前から評判が悪くて、万引きで掴まったりしてたの。 ここにも何度か入り込んでたらしくて、でも今日は失敗して落ちて」
「どこか折ったらしいわ。 天罰よ」
 痩せた四十代が厳しく締めくくった。


 やがて救急車がサイレンを鳴らさずにやってきた。 二人の隊員がストレッチャーを持って入っていき、まもなく警官三人と共に出てきた。 ストレッチャーに乗っているのはきゃしゃな感じの男の子で、右肘を曲げて顔を隠していた。
 敏美は腕時計を見た。 規定時間を五分過ぎている。 もう入っても大丈夫だろうと判断して、玄関を見ると、黄色と黒のテープが張られていて、たじろいだ。
 引き戸の傍にも警官が立っていた。 敏美はその若く背の高い警官に、入ってもいいですかと尋ねた。 彼は愛想よく微笑み、どうぞ、と戸を開けてくれた。


 玄関の中は、いつも通り静かだった。 声をかけようかどうしようか迷っていると、由宗がいそいそと走ってきた。 これも普段のままだ。
 笑みのような表情を浮かべてハッハッと言っている由宗の頭を、敏美は前かがみになって撫でさすった。
「大変だったね〜。 人がたくさん来て、びっくりした?」
 とたんに車椅子のきしむ音がした。 奥のドアから佐貴子が姿を現わし、これまでとは違う、心細げで泣きそうな声を上げた。
「菅原さ〜ん!」








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背景:月の歯車
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