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夏は謎
-13- 雨上がる
雨は翌朝まで続いたので、敏美は灰色の空を窓から覗いては、気を揉んだ。
「午後まで降るかな。 今日の担当は大きい犬たちだから、散歩が大変」
スーパーの管理職をしている父が、パジャマ代わりのジャージを着たまま、大あくびをしながらリビングに入ってきた。 どんなに忙しくても、味噌汁と玉子かけご飯の朝食は断固食べる主義だ。
「あ、おはよう、お父さん」
「ちゃんと帰ってたか」
嬉しそうに言うと、父の彰和〔あきかず〕はまた顎が外れそうなあくびをした。
幸い、雨は十時前には上がった。 遅番出勤の父が駅まで車で送ってくれて、敏美は十一時五分の電車に間に合った。
車から降りるとき、父は思い出したように言った。
「まだ彼氏いないのか?」
「いないよ」
敏美があっさり答えると、父はほっとしたような、残念なような、複雑な表情をした。
「仕事一筋か」
「そこまで献身的じゃないけど」
「いいのが見つかったら父さんに言えよ。 反対はしないから。 たぶん」
たぶんね。
可笑しくなって、敏美は足を伸ばして降りる寸前に、父の腕を軽く握って笑顔を残した。
アパートに着く頃には、雲が切れて日差しが道を照らしていた。 敏美は、母に作ってもらったシチューとおでんの入った密封容器を小さな冷凍室にしまい、帰り道に買ったベーグルサンドをコーヒーで流し込みながら着替えをした。
日曜の最初の予定は、木元家だった。
敏美はなんとなくうきうきした気持ちでスクーターを駐車場から引き出した。
昨日の土曜日はどしゃぶりだった。 散歩担当の木元翼はどうしただろう。 金曜日に留守番したから、土曜は役割放棄だったかな?
だが、木元邸に近づくにつれ、敏美のふわふわ気分は当惑に変わった。
何か様子が変だ。 いつも取り残されたように静かな屋敷の周辺が、ざわざわしている。 表門の前に二台の車が停まっていた。
傍まで行って初めて、後ろに隠れたようになっていた一台がパトカーだとわかり、敏美は眼を見張った。
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