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夏は謎
-9- 些細な謎
これには二人ともびっくりした。
「うへぇ!」
翼は思わず呟き、目を丸くして足元の中型犬を見下ろした。
由宗は、ぴんと脚を張った姿勢のままで、交差点の向こうを見つめていた。 それで、翼も自然にその視線を追って顔を上げた。
「なにかあった?」
「いや」
敏美の問いに、翼は間髪を入れず答えた。 早すぎるぐらいの反応だった。
それから彼は、持っていたリードを縮めて、由宗が膝横にぴたりとつくようにしてから、信号を見上げた。
「お、緑になった」
二人と一匹は、軽い足取りで交差点を渡った。 さっきの吠え声が気になっていた敏美は、交差点近くにある和菓子屋と理髪店にサッと目を走らせたが、どちらにも一人ずつ客が入っているだけで、変わったところはなかった。 由宗も、まったく両店に興味を示さず、さっさと通り過ぎた。
閑静な木元家の表門に到着したとき、時間は三時をわずかに回ったところだった。
敏美は、外の水道で由宗の足を洗い、丁寧に拭いた。
解放された犬が玄関の上がり口に飛び上がるのを見届けると、敏美はリュックを背負って、後から入ってきた翼と、靴箱の横で尻尾を振りながら立っている由宗に別れの挨拶をした。
「じゃ、これで失礼しま〜す。 由宗クン、また月曜日にね」
すると、翼も由宗も笑顔になった。
「これからどっちへ行くの?」
と、翼が尋ねた。 ポケットからスクーターの鍵を取り出してから、敏美は答えた。
「園芸高校のほう」
「ああ、駒沢通り」
「そう、エアデルテリアが二頭待ってるの」
「お疲れさん」
敏美も笑顔で頷き、リュックをかたかた言わせながら玄関を出た。
スクーターのキーを解除して、またがろうとしたとき、ふと奇妙な感じがした。
敏美は動きを止め、下の地面を見直した。 車輪の跡がついている。 まだスタートさせていないのに。
誰かが、停車したままのスクーターを持ち上げて、横に五センチほどずらしていた。
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月の歯車
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