表紙 目次 文頭 前頁 次頁
表紙

夏は謎  -6- ユニーク




 ああ、孫か……。
 落ち着いてみれば、考えつかないほうが不思議だった。 写真から抜け出たように似てるっていうのは、血が繋がってるせいにちがいない。


 敏美は胸を撫で下ろして、てきぱきと動き出した。 ドッグフード用のボウルを洗って拭き、壁にかかったリードを取って由宗の首輪に嵌めた。
 そうしながら、すぐ前に立っている木元翼に尋ねた。
「今日は奥さんお出かけですか?」
 一瞬きょとんとした後、翼は低く笑い出した。
「ああそうか、奥さんってグーちゃんのことね」
 グーちゃん?
 キツネにつままれたようになった敏美を、青年は面白そうに眺めた。
「最初バーちゃんと呼んだら、いやな顔したから、じゃ良いバーちゃんてことで、グーちゃんになった」


 ここは笑うところか。
 少なくとも彼には、独特のユーモアがあるらしい。 悪いヤツじゃないな、と敏美は思うことにして、どっちつかずの微笑を浮かべた。
「グーちゃんか」
「いいだろ? 言いやすいし。
 グーちゃんは車で、かかりつけの医者に行った。 血圧が上がって目まいがするって」
 敏美は真顔に戻った。 社交辞令だけでなく、本当に心配になった。
「相当具合悪そうでした?」
「いや、そんなでもなかった」
「ああ、よかった」
 敏美は胸を撫で下ろした。
「それでお留守番に?」
「そう、呼びつけられた」
 別に不満な様子もなく、翼は淡々と答えた。
 敏美は、散歩を期待して尾をキリッと巻き、小刻みに振っている由宗の肩を優しく叩いた。
「じゃ、行こか」
 それから顔を上げて、翼に告げた。
「いつもの散歩してきます。 三十分の予定です」
「あ、オレも行くね」
 当たり前のことのように、青年は敏美の横に出て、並んで廊下を歩き出した。


 敏美は困った。
 なんでついてきたいのか、理解できない。
 翼青年は気さくだが、なれなれしくはないし、下心があるようにも見えない。 第一、そんなものがあるなら、二人きりの今がチャンスのはずだ。
「由宗クンを運動させるだけですよ?」
「わかってるよ」
 相手は平然と答えた。
「オレもやってるから。 日曜日に」





表紙 目次前頁次頁
背景:月の歯車
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送