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戻れない橋  83 二人で相談


 結婚に関して、五十嵐はある提案をした。
「式そのものは、内輪でやれたらなと思ってるんだ。 本当に喜んでくれる身内と親友だけで」
 亜矢はその考えに、全面的に賛成だった。
「それ、疲れなくていい。 私、一人娘でしょう? 親たちのほうが夢持っちゃって、シンデレラの結婚式みたいなのを期待してるの」
「言ってたな、小さいときから積み立てしてたから、ドカンと使っても大丈夫って」
 五十嵐がクスッと笑った。
「それは後でやる披露宴でいいんじゃないかな。 できれば別の日に」
 共感をこめて、亜矢もうなずいた。
「みんなを招待するのは披露宴ね。 会員形式にして、食事会をしない? 自由に選べるビュッフェ・スタイルがいいな。 ただ、注文したら運ぶのはカッコいいボーイさんってことで」
「シンデレラ式?」
「そう、ちょっとだけ晩餐会」
 そこで亜矢は、いたずらそうに目を光らせながら、自分もある提案をした。
「特別なドレスを着るつもり。 ネットで見たの。 詳しい作り方はわからないんだけど、真際さんが一緒に見て、力になるって約束してくれた。 真際さんはドレスのデザインも得意なんでしょう?」
「そう、うんと若い頃、有名デザイナーのデザイン画を代作してた。 どのデザイナーかは言わないけど、アイデアも買ってもらったらしい。 たぶん安かっただろうな、実力の割には」
「賛成してくれる?」
「もちろん! 僕も合わせる」
「ありがとう! 一段と立派に見えるようにします」
「引き立て役でいいよ。 主役は花嫁」
「二人ともでしょう?」
 亜矢は笑いながら未来の夫に抱きつき、肩に顔を載せた。
 とたんに計ったように父が居間に入ってきて、ソファーにくっついて座っていた二人の短いらぶらぶは中断された。 別に父は邪魔しに来たわけではなく、よくあちこちに置き忘れる携帯を探していただけなのだが。




 こうして、結婚業者を介さない挙式の形が、次第に整ってきた。 後は細かい部分を詰めるだけだ。
 結婚式の後、記念写真を撮る打ち合わせの最中、亜矢は前から言いたかったことを、そっと五十嵐に耳打ちした。
「あの、望月さんと千早さんも一緒に記念写真を撮らないかな」
 虚を突かれた様子で、五十嵐は予定表から顔を上げた。
「そう言えば、たぶん撮ってないな。 普通の格好で、急いで入籍しただけだから」
 気がついたら対処が早い五十嵐は、すぐ姉に電話をかけた。 亜矢はあわてて、彼が思いついたことにしてくれと頼んだ。
「お節介だよね。 そうなんだけど、そう思われたくない」
「気ぃ遣うなぁ。 女同士だと、男より微妙なの?」
「すこし微妙かもしれない」
「わかった」
 そのとき、千早が電話に出た。
「ああ、ルリちゃん?」
 五十嵐は、くったくなく話しはじめた。
「式のカメラマンさ、新田が仕切ってくれるって」
 新田義輝は一流のカメラマンで、五十嵐の友人だった。 結婚祝いにアゴアシ代だけでバーンと写真を撮ってくれるというのだ。
 そう切り出しておいて、五十嵐はすかさず言った。
「こんなチャンスめったにないじゃない? ルリちゃんたちも式服着て、撮ってもらおうよ」








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