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表紙

戻れない橋  23 街中なのに




 男たちを見て、亜矢は思い出した。 前にスーパーで、関川兄と一緒にいた二人組だ。 亜矢が会釈したのに、じろじろ見返すだけで、感じが悪かった。
 二人を見分けた関川晃路〔せきかわ こうじ〕の表情が、がらりと変わった。 不愉快そうで、どこかおびえた顔になった。
「なんだよ、おまえら」
「あれ、言うじゃねーか」
 前髪を立てた、背の高いほうの男が、口の片端だけを上げて笑みを作った。
「おれたち、ダチだろ? うまい具合に週末だし、一緒にパーティーしようぜ」
「そうそう、ちょうど車ころがしてきたところだし」
 中肉中背のがっちりした方が、いきなり亜矢に手を伸ばした。 もともとこの二人が嫌いだったため、亜矢はとっさに腕を後ろに回して、振り払った。
「おっと。 ちゃんと招待してんのに、態度わるいよー」
 二人が勝手なセリフを並べるたびに、亜矢は少しずつじり下がって、逃げる準備をした。 彼らには、呑気な関川兄弟とは本質的に違う邪悪な陰りがあった。
 同じように、晃路も亜矢を後ろにかばうようにして、後ずさりした。
「この人は遊ばないんだよ。 今、家まで送ってくとこ」
「あれ、もしかしてお前ら兄弟が、この子に遊ばれてんの? だーかーら、『雪の女王さま』?」
 関川弟の頬が、赤く色づいた。
「ちげーよ、あれは顔が似てるから」
 アニメのキャラに? 嬉しいのかどうか、亜矢はよくわからなかった。
 すると突然、中肉中背が晃路を横に突き飛ばした。


 ぎょっとした亜矢は、思わず膝を曲げて晃路を助け起こそうとした。 その隙に、背の高いほうがすばやく亜矢の背後に回り、脇の下に両腕を入れて羽交い絞めにした。
 亜矢は息を止めた。 怖いより何より、激怒が先に立った。
 このヤロー、よくも私に手をかけたな!
 どこから力が湧いてきたか、わからない。 気がつくと、亜矢は地面を蹴って両足を勢いよく持ち上げ、前に立って挟み撃ちしようとした中肉中背めがけて、力まかせに突き出していた。
「うっ」
 前の男は、みぞおちを蹴られてよろめき、がくんと前かがみになった。
 思いがけず亜矢のアシストをする形になった背の高い男は、あっけに取られて固まった。
 すかさず亜矢は、返す刀で見当をつけ、自分をまだ捕まえている男の足の甲めがけて、強烈に踵を立てて飛び降りた。
「げっ!」
 こっちの男も痛みに耐えかね、腕を離して足首に手を伸ばした。
 その隙に、亜矢は駆け出そうとした。 だか一瞬早く、ずり落ちそうなショルダーバッグの紐をがっちり掴まれ、がくんと引き止められた。


 一人で奮闘している間に、なんと関川弟の姿は幻のように消えていた。
 あいつ、汚い!
 胸を蹴られた男は、まだ自分たちの車の横にうずくまっている。 背の高い奴とバックの引っ張り合いをしながら、亜矢は覚悟した。 こうなったら、みっともないなんて言っていられない。 ここは人通りの多い駅前近くだ。 思いっきり悲鳴をあげれば、ぜったい注目される。
 まだ怒っていたので、エネルギーはふつふつと沸いていた。 だから大きく口をあけて、息を吸い込んだ。
 わめく寸前、不意に目の前の男がいなくなった。
 正確に言うと、歩道の上に長々と伸びた。
 あまり鮮やかにノックアウトされたため、まだバッグの肩ベルトを指に巻きつけていて、引っ張られた亜矢も前に引きずられ、あやうく膝をつきそうになった。






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