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戻れない橋
6 失せた未来
亜矢と摩湖は同じ進学塾に通い、どちらもめでたく志望校に受かった。
といっても、進路は違っていた。 摩湖が、最近めっきり仲良くなった兄の影響で、経済学部に入った一方、亜矢は普通校をすべり止めにして美術大学を受験。 母はひそかに、娘が英語学部を出て海外で活躍する華やかな将来を心に描いていたらしいが、亜矢は県内有数の美大を突破したとたん、普通校合格を忘れてしまった。
といっても、亜矢は現実的で、自分が画家として生きていくほど激しくないことを知っていた。 一流になるには、人より頭抜けた才能が必要なのはもちろん、たぶん取りつかれたように描き続ける情熱こそが大事だろう。 しかも、そうやって努力し続けたって、認められるとはかぎらないのだ。
だから、少しは自信あるデザイン科にした。 すぐに方向性が同じの友達ができたし、コンピューター・グラフィックも習うことができて、充実した学生生活だった。
三年になると、講師や先輩のつてで、ぽつぽつアルバイトの口が舞い込んできた。 仲間と協力して、企業のロゴ公募に応募したりもした。
初めて採用されたのは、隣町でご当地の『町キャラ』を造ろうという話になり、デザイン募集したときだった。 『くまもん』のような県を挙げての大事業ではないにしろ、十万円の優勝賞金はありがたかったし、何よりも隣町を通るたびに、駅やコンビニの前で自作キャラが笑っているのが嬉しかった。
両親も親ばかを発揮し、会社や近所で盛んに自慢していたらしい。
美大の成績は悪くなかった。 いやむしろ、たいてい上位だった。
教授の推薦もあり、就職はそんなに困らないだろうと思っていた。 実際、都内のよく知られた企画デザイン会社で内定が取れたときは、足がふわふわ浮くほど嬉しかった。
ところが、その内定が不意に取り消された。 大口の顧客が注文をキャンセルして、業績が悪くなったから、というのが会社側の説明だったが、大学の事情通によると、逆に仕事相手からゴリ押しされて重役の息子を入社させなければならなくなったという噂が立っているそうだった。
世の中は公平じゃない、という現実を、亜矢は初めて思い知らされた。 ちゃんとした会社だから、内定でも本決まりだと思い、他の内定を断っていたのが痛かった。
そんなとき、二年先輩の知り合いが、落ち込む亜矢を誘ってくれた。
「カシワバみたいな大手じゃないけど、中堅だし、仕事場の雰囲気がいいんだ。 動きやすいっていうか、フットワークが軽いってのか、たとえボツになる企画でも、真面目に聞いてくれるんだよ。 古藤ならスキルあるし、面接受けてみない?」
もうじきクリスマスというこの時期、ともかくどこかへ就職したい。 河内〔かわち〕というその男子は気さくで人望があったので、亜矢は彼の言葉に心引かれた。
「ありがとう河内さん。 トライさせてもらいます」
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