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道しるべ  263 城へ挨拶に


 翌朝早く、イアンはトムとモードを連れて、城となり新たな建て増しの進むワイツヴィル城に出向いた。
 前の帰還とは違い、今度は立派な土産をたずさえていた。 買う金はどこから出たと問われたら、正直に答えるつもりだった。
 カー伯爵は、家族総出で迎えてくれた。 そして、権威の象徴のような美しいマントと、霜焼けの痛みをやわらげるために造ったといわれる爪先の巻き上がった最新ファッションの靴を見て、破顔一笑した。
「これはまた、どんどん派手になるな」
「先を自由に伸ばしたり曲げたりできますから、足に合わせるのが簡単で窮屈にならないそうです」
 まだ自分では履いたことのないイアンが説明すると、伯爵はとうとう声を出して笑い始めた。
「流行とはおかしなものだ。 いっそこの先に鈴でもつけるか」
 イアンの妹イヴリンも、父につられて嬉しそうにきゃっきゃっと笑い出した。
「おもしろい靴! お菓子みたい」
「履いてみて。 ねえあなた?」
 母と娘にせがまれて、カー伯爵は苦笑しながら靴を履き替えた。 幸い背が高く脚が長いため、どんな靴を履いてもそれなりに似合った。
「ふむ、これを閲兵式に履いていって、流行らせてみるか」
「すぐ引っ張りだこになります」と、イアンは請け合った。


 買った金の出所について、伯爵は何も訊かなかった。 母には心をこめたドレスとハンカチを、妹には軽やかなコートとかわいい人形を贈り、母の侍女たちにもスカーフを渡すと、みんな喜んでくれた。
 やがて、ようやく気付いたように伯爵が尋ねた。
「優しい奥方も無事に戻ったか?」
「はい」
 イアンは無意識に胸をふくらませて答えた。
「ただ、間もなく跡継ぎが生まれますので、しばらくは用心して家で休ませます」
「まあ!」
 ウィニフレッドが跳ぶように席を立った。
「おめでとう、イアン。 本当によかったわ」
「これでワイツヴィルも後々まで安泰だ」
 伯爵夫妻は口々にそう述べ、両側から長男を抱きしめた。




 団欒の後は、モードとトムも招き入れられ、改めて婚礼の許しを受けた。 これから準備を経て、六月の初めに挙式することが決まり、その前にトムは血の繋がった人々に会いに行く決意をした。












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