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表紙

道しるべ  262 土産物の山


 陽気な掛け声と共に、荷物が次々と屋敷内に運び入れられた。
 さっそく大広間で一部が開けられ、土産がテーブル一杯に並んだ。 豪華な金襴と共に、春の空のような水色やすみれ色の絹と純白の薄絹まで添えて渡されて、モードは飛び上がって喜んだ。
「こんな美しい生地は見たことがないわ! ほんとにありがとう、クラリー。 鋏を入れるのが惜しいほど豪華ね」
「気に入ってもらえてよかった。 ユージェニーと一緒に選んだのよ。 彼女は趣味がいいの」
 そうしてジョニーとモードは再び抱き合い、笑いさざめきながら旅の思い出や留守中に当地で起こった面白い出来事などを、熱中して語りはじめた。


 その間に、イアンは別の袋や箱を開け、留守を守ってくれたトムとその仲間や、しっかりと家内を管理していたガレスら使用人へ、ずらりと土産物を披露した。
「トムは間もなく、生まれながらの身分に戻るのだから、ぜひこれを」
 そう言ってまず差し出したのは、王都で最高の腕と評判の高い刀鍛冶に特注した見事な剣だった。 武器として切れ味の見事なものだが、外見は繊細な彫りの柄がついていて、芸術品のように美しかった。
 トムは心もとない微笑を浮かべて、立派な剣を受け取り、しげしげと眺めた。
「俺はこの剣にふさわしいだろうか。 弓なら少しは自信があるが」
「運動神経だけでなく頭も鋭いおまえのことだ。 少し練習すればすぐうまくなる」
 保証した後、イアンは本心から付け加えた。
「ただし、剣を振り回さないですむ平和なら、それが一番いいな」
「お互いにな」
「ともかく、初めて会う親戚の目を驚かす効果はあると思うぞ」
「確かに」
 半分ほど鞘から抜いてみて、トムは大きく頷いた。
「立派な刃だ。 それに長さがこんなにある。 俺用に特別注文してくれたんだな」
 感謝の印に差し出された手を、イアンはしっかりと握り返した。


 他の者には、春用のしゃれた上着や粋な帽子、ベルトや短剣などが贈られた。 そしてもちろん、これからの祝宴に出す異国のワインも。
 喜んだ弓兵の一人が、壁からリュートを下ろして、爪弾きながら歌い出した。 春を祝う地元の民謡で、ここらの誰もが知っている歌だ。 たちまち皆が一斉に加わり、まだ酒が入っていないのに楽しい酒宴の雰囲気になった。













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