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道しるべ  261 ついに帰宅


 その日の午後、三台の馬車を連ねて、一行は懐かしい大門の前に止まった。
 蹄鉄の響きと車輪のきしむ音で、着く前からわかっていたのだろう。 待ちかねたように扉が開き、家令のガレス夫婦を先頭に家中の者が一斉に飛び出してきた。
 歓喜の塊の中に、トムとモードも混じっていた。 トムは片手にモードを抱え、もう片腕にちょこんと娘のロザリンドを乗せて、満面の笑顔を見せている。 ロザリンドに抱き癖がつくどころではなく、まるでペットのオウムのようにいつも腕にくっつけて持ち歩いている感じだった。
 召使たちは、男も女も馬車に駆け寄って、乗客が降りるのを手助けしたり、荷降ろしに手を貸したりした。
 イアンは彼らと挨拶を交わしながら、妻のジョニーだけは自分の手で軽々と抱きおろした。 もうそれほど軽いといえる状態ではなかったが。
 ゆったりした服の上からでも、ジョニーが間もなく母になるのがわかった。 迎えの人々はますます喜び、陽気な掛け声が飛び交った。
「おや、新しい男爵さまは称号だけでなく跡継ぎまで手に入れなさったようだ!」
「奥方様! 長旅のおやつれもなく、おめでとうございます!」
 ぽっと顔を赤らめながら、ジョニーは人々の名を一人一人呼んで、留守中の礼を言った。
「門がピカピカね。 一段と立派に見えるわ、ありがとうハウエル。 前庭もきれいに掃き清めてあるし、家畜も元気そう。 立派だわ、オレフ」
 そこへモードが駆け寄って、大きくジョニーを抱きしめた。
「お帰りなさい!」
 友の肩に顔を埋めると、ジョニーは笑いを含んだささやき声で、改めて報告した。
「私、やっとあなたに追いつけそうなの」
 首を曲げてジョニーの上気した顔を覗き込み、モードはにやにやした。
「降りてきてすぐにわかったわ。 本当におめでとう! 実はね、私も秋にもう一人授かりそうなのよ。 子供たちが部屋一杯にならないうちに、早く式を挙げなくちゃ」
「まあ、あなた達も! そっちこそおめでとう!」


 家に入って、ジョニーの驚きと満足は更に大きくなった。 この屋敷に来た当初に注文しておいた壁掛けが遂に完成して、ジョニーの願ったとおりの姿で玄関広間の二面を堂々と飾っていたのだ。
「まあ、思った以上に豪華! それにテーブル掛けも新しくしたのね」
「壁だけ立派だと釣り合いが悪いんで、ベッキーとキャスと私で冬の間に作り直したんでございますよ」
 エッシーが胸を張って説明した。 すぐ気付いてもらえたので、嬉しさで目が光っていた。
 ジョニーはエッシーとその傍に並ぶベッキーとキャスに手を差し伸べ、心から言った。
「嬉しいわ。 このままそっくりアレスベリーに持っていきましょう」
「ありがたいことで」
 エッシーとベッキーたちは感激した。


 イアンはトムと肩を組み、出迎えたガレスと話を交わしながら入ってきた。
「ジョニーも喜んでいたが、思った以上に立派な管理をしてくれていたな」
 男爵の家令になるという望みが果たせそうなガレスは、主人が留守の間に頭と体を使って、役に立つアピールをしようと頑張っていた。
「ありがたいお言葉で。 お二人が無事でお帰りになって、こんなに嬉しいことはございません。 幸いに今年は寒さも去年ほどでなく、家畜に病気が出ませんでしたので、すぐ祝宴の支度をいたしましょう」
「頼む。 みんなの苦労をねぎらいたいから、酒もどんどん出して、パッとやろう」
「はい!」
 やった! と内心ほくほくしながら、ガレスは料理長の妻を促して、厨房と食品倉に急いだ。












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