表紙目次文頭前頁次頁
表紙

道しるべ  258 期待と不安


 皆が昼食を食べ終わる頃、ジョニーはようやく目を覚ました。
 寝すぎてあちこちが痛い。 腰を揉み、腕を回して凝りを取っていると、ドアが開いた。
 侍女の一人が来たのだと思い、ジョニーは顔を上げた。 すると、イアンが音を立てずにそっと入ってくるのが見えた。
 二人の目が合った。
 とたんにイアンの足取りが速くなり、あっという間にベッドの横へたどりついた。 そして背の高い体をかがめると、端に座ったジョニーの額に自分の額を当て、熱がないか確かめた。
「気分は?」
 少し戸惑いながらも、ジョニーは微笑んだ。
「何ともないわ。 元気よ」
「よかった」
 すとんと妻の横に腰を降ろして、イアンは着替えを手伝った。
「腹が減っただろう。 無理に下へ降りなくても、こっちへ運ばせよう」
 ジョニーは大きな目を丸くした。
「ずいぶん優しいのね」
「そんなことはないさ。 日頃冷たいみたいな言い方だな」
 ジョニーはイアンの頬を撫で、瞼に軽くキスした。
「今日は特にっていう意味。 どうしたの?」
 イアンは密生した睫毛を伏せ、妻の耳元で囁いた。
「これからはずっと大事に見守る。 無理しちゃいけないよ。 何でも知ってるつもりでいるユージェニーによると、四ヶ月まで大した変調もなく元気でいれば、子供はたいてい丈夫に生まれるそうだ」


 ジョニーの喉が、ごくっと鳴った。
 眉をしかめているのは、頭の中で忙しく、ここ数ヶ月の体調を思い返しているらしい。
 ようやく納得がいってから、ジョニーは顔を上げてイアンを見つめた。 その両目が、みるみる涙で一杯になった。
「今度こそ大丈夫だと……思う?」
 イアンは彼女を両腕で抱きしめ、背中を大きな手で撫でさすった。
「落馬したり階段から落ちたりしなければ、まず大丈夫だろう。 赤ん坊が運と体力に恵まれていることを祈って、後は気楽に過ごせばいいよ。 母親が幸せなら、子供もきっとこの世に生まれたいと頑張るはずだ」
 ジョニーはイアンにすがりついて、胸に顔を埋めた。 くぐもった声が、小さく響いた。
「私、あなたの妻になってからずっと幸せだった。 きっと子供は喜んで生まれてくれるわ」











表紙 目次 前頁 次頁
背景:Kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送