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道しるべ
255 賑やかな街
国王の居城に着いた時間は、午後の二時頃だった。 大門の近くには、王が出てきたら触れてもらおうとして、二月の寒空の下、遠くから来た難病者があちこちにたむろしていた。
座り込んだ人々を踏まないように注意しながら、イアンは馬を引いて中に入り、衛兵に名前を告げて案内を請うた。
やがて彼は中に通され、長く待たずに面会を許された。
国王のエドワード三世は、ヨークシャーを訪れたときより痩せて、老けこんでいた。
それでもイアンのことはちゃんと覚えていて、顔を見ると満足そうに頷き、半月後に開く舞踏会の最初に爵位の授与を行なおうと約束してくれた。 名門フランス貴族の未亡人を英国側に取り込んだということで、王は敗戦の悔しさをいくらかでも補おうとしているようだった。
せっかく来たのに気まぐれで取り消されるなどという目に遭わずにすんで、イアンは胸を撫でおろした。 そして、やはり一人では危険だと無理やりついてきたニッキーと共に、目抜き通りを選んで馬でゆっくり散策した。
といっても、郊外を散歩するようなわけにはいかなかった。 道が汚いのは仕方ないにしても、騒々しさは鼓膜が痛むほどなのだ。 馬車の御者と荷車引きが隙間を争って怒鳴りあい、その騒音に負けじと、店々から売り子が声を張り上げて呼び込む。 馬のいななき、市場に運ばれる鶏や豚の鳴き声、走り回る子供の叫び。
「いったいロンドンのどこがいいんだ?」
人や馬車に囲まれて神経質になった愛馬をなだめて歩かせながら、イアンはニッキーにぼやいた。 ニッキーは目を光らせて辺りを見回し、楽しげに答えた。
「この活気ですよ。 がやがやと元気で、新しい物が次々と運びこまれて」
「疲れる」
イアンの一言に、ニッキーは容赦なく指摘した。
「奥方を迎えたら、すっかりおじさんになりましたね」
仲良く言い合いながらも、二人は通りの両側を注意して眺め、良さそうな店を何軒か見つけた。 構えの立派な生地屋や、隣の豪華な服飾店、金細工の店、それに馬具の店……。
「イアンさんも服を仕立てるんでしょう? 宮廷の連中みたいに派手なのを着たら、どんな具合ですかね。 ぜひ見てみたい」
「あまり時間がないんだ。 手ごろな古着があったら飾りとレースを付け替えるだけで、ごまかせると思う」
「だめですよ!」
ニッキーがあきれて大声を出した。
「れっきとした貴族になるっていうのに。 服装は何より大事な第一印象になります。 これだけはケチしないで飾り立ててください」
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