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道しるべ  254 無事に到着


 陸路を使ってのロンドン行きは、イアンにとって初めての経験だった。
 そっちではむしろジョニーのほうが先輩で、国王の一行に混じってヨークシャーまで来たときのことを思い出しながら、安全で凸凹の少ない道を指摘した。
 イアンは、二人きりのとき妻から内輪で知らされた情報をよく聞き、できるだけ彼女の選んだ道を採った。 おかげで一行はシェフィールドまで余裕を持って行くことができ、イアンの株はますます上がった。
 だが、イアンは手柄を独り占めにする性格ではなく、妻の優しさと共に知性も愛していた。 だから大きな町であるシェフィールドに着いたとき、ジョニーの後押しがあったから旅の初めの二週間を無事に過ごせたと皆の前で誉め、町一番の宿屋で宴会を催した。
 真中の席に座らされて、ジョニーは誇りと照れくささで顔を赤くしながらも、本当に嬉しそうだった。 彼女はモードと異なり、パッと目立って注目されるタイプではない。 だから真価がわかる者が声を上げなければ、とイアンは強く思っていた。


 一行が無事にウィンザーを過ぎてロンドンに入ったとき、日付はすでに翌年に入っていた。
 寒さの厳しかった前年に比べると、その年はだいぶ暖かかった。 そのため、一行は風邪も引かず、元気に賑やかな町筋を通りぬけていった。
 軒がひしめく街路は清潔とはいえなかったが、実に様々な店が並んでいて、通い詰めても一ヶ月は飽きないほどだった。
 ニッキーは父から聞いた芝居小屋に行きたがっていた。 喜劇を見たいそうなのだが、実際は観客が投げるコインや、気に入らないときに飛び交う野次と果物の種といった騒ぎを楽しみたいのではないかと、イアンは密かに疑っていた。
 一方、南国風の美男に育ったアルのほうは、きょろきょろダンス場を探していた。 王都の水で磨かれた美人たちと踊り、恋の冒険を求めているらしい。
 年上の二人に比べて、見習の少年たちは道中に家族に会えただけで喜んでいて、望みはもっぱら珍しい食べ物だった。
 そして女性たちは、故郷では目にできない高価な輸入物の生地やアクセサリー、最新の流行などに顔を輝かせた。
 とりわけジョニーは真剣だった。 モードに頼まれた布地の土産もあるし、これから出席する宮廷で立派な貴婦人として振舞うため、儀礼服や舞踏会用のドレスを大至急仕立てなければならないからだ。
 彼ら、彼女たちにたっぷり小遣いを渡した後、イアンは宿屋を後にして、何よりも先に国王へ到着の挨拶をしに参上した。












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