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道しるべ  253 いざ王都へ


 伯爵が予期したように、イアンと部下達は手際が良かった。 あの大量の荷物を、朝の三時課の鐘(午前九時)までに全部馬車に積み終え、ようやく高くなってきた太陽の白い光を浴びて、玄関前に集合した。
 使用人たちはもちろん、トムに寄り添ってモードも出てきて、イアンとジョニーに別れを惜しんだ。
「たぶん次に会えるのは春になるわね」
「お土産を買ってくるわ。 何がいい?」
 ジョニーが尋ねると、モードは顎に指を当てて考えた。
「そうね……金襴〔きんらん〕か、最高級の繻子〔しゅす〕で淡い緑か空色の生地があったら、買ってきてくれる? 今度の結婚式は最高のものにしたいの」
 ジョニーは微笑んで、大きくうなずいた。
「わかるわ。 きっと探してくる」
「ありがとう」
 二人の貴婦人が堅く抱き合っている間に、その夫と恋人もこれからのことを語り合っていた。
「留守のことは心配するな。 おれ達は急がないから、おまえ達が戻ってくるまでここを管理させてもらうよ」
 そうトムが言うと、イアンは感謝して受け入れた。
「ありがたい。 本当に助かる。 それに、帰ったときおまえがいないと寂しいからな」
「その代わり、おれが親戚に会いに行くとき、ついていってもらうかもしれない。 男爵に身元を保証してもらえれば、向こうも少しは大事に扱ってくれるだろうから」
「おい、自信のないことを言うなって。 向こうから迎えに来たぐらい、おまえを大切に思ってるんじゃないか。
 でも、一緒に来いというなら、喜んでついていくよ。 そしてたっぷり誉めちぎってやる」
「そんなことしなくていい。 ひいきの引き倒しって言うだろう?」
 そこへモードが来て、トムの腕を取った。
「なに揉めてるの?」
「いや、揉めてるわけじゃない」
と、イアンが優しく答えた。
「あなたとトムがここにいてくれると聞いて、喜んでいるんだ」
「初めてあなた達を喜ばせることができたみたいね」
 開けっぴろげに笑い顔を浮かべて、モードはトムにもたれかかった。


 ユージェニーら小間使いは馬車に乗り込んだが、天気がいいのでジョニーは夫と共に馬で行くことにした。
 盛大に送られて大門を出ると、天気までが一同を祝福するように、さっきまで吹いていた強い風がぴたりと止んだ。
 毛織物のマントがひるがえらなくなったため、ジョニーは嬉しくてイアンに呼びかけた。
「馬を御しやすくなったわ。 幸先がいいわね」
「君の心がけがいいからだよ」
 ジョニーの機嫌がいいから、イアンも明るい気持ちになった。










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