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道しるべ  252 早朝の大声


 翌朝早く、まだ日が昇る前に、ベントリー家の門番ハウエルは、大門をガンガン叩く音に飛び起きた。
 分厚い上着を引っ掛け、目をこすりながら扉に向かうと、外から複数の馬の鼻息と陽気な呼び声が聞こえた。
「おーい、開けてくれ!」
「殿様の命令で、俺達が未来の男爵様の護衛につくことになった!」
「で、どちらさまですか?」
 ハウエルが寝ぼけた声で聞くと、向こうはますます大声になった。
「ニッキー・ダヴェンポートと」
「アル・ロメロスだ! 殿が特別に我々を選んで」
「ロンドン見物の路銀も下さった!」
 実に気が合っている。 これならいい護衛になるだろうと、まだ頭がボーっとしているハウエルでさえよくわかった。


 頼もしい元部下で、間もなく騎士になろうかという二人の若者の登場に、二階から降りてきたイアンの顔もほころんだ。
「よく来たな。 だがまだ外は真っ暗だぞ。 こんなに早く来る必要があったか?」
「イアン様はきちんとしているから、早起きして出発してしまうかもしれない、とっとと行け、と殿に追い出されました」
 イアンは苦笑いし、気心の知れた二人の肩を叩いてから、暖かい軽食と上等のエールをふるまった。


 護衛役の二人は、トムに対する伝言も託されていた。 空が白んできて、モードと温めあっていた寝床からまずトムが起き出し、階下に下りてきたところを、廊下で待機してバカ話をしていた二人に掴まった。
「よう、二枚目」
 若者たちと親しくしているトムは、驚かずにニヤリと笑った。
「おや、誰から聞きました?」
「もう館中に伝わってるさ」
 ニッキーが物知り顔で言い、アルと共にトムの腕を取って、人目につかない廊下の隅に連れていった。
「殿からのお言葉だ。 義理の娘を安心して預ける、グランフォートのサー・レイモンドにはよろしく伝えておくから心配するな、とのことだ」
 トムは驚きのあまり、呆けた顔になった。
「わざわざ殿が……?」
「その通り」
 感激で、トムの目がうるんだ。
「一兵卒のために、そこまでやってくださるとは。 身に余る光栄です」
「いつまでも一兵卒でいるわけじゃないんだろ?」
 そう言って、アルが軽くトムに肩をぶつけた。 すぐにニッキーも反対側からふざけてぶつかった。
「立派な親戚がどこかにいるという噂も立ってるぞ」









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