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道しるべ
251 改めて家族
大きく開けた窓の前でイアンがよろけるのを見て、伯爵は反射的に掴んで引き戻そうとした。
二人の腕がからまった。 勢いで肩が当たった。
視線が合うと、どちらの目も赤くなっているのが見えた。
それから何が起きたのか、よくわからない。 気がつくと、父と子は胸をぶつけて抱き合っていた。
一瞬で、心の中に硬く築いていた壁が崩れ落ちることがある。
きっとジェリコの壁(聖書の逸話。 敵のラッパの振動で、あっという間に崩れたという)だったのだろうと、伯爵は後に冗談で言ったが、いざ話してみると、父子は見かけ以上に中身が似ているのがわかった。 その点でまさに、ジョニーの言った通りだったのだ。
母のウィニフレッドと妹のイヴリンも交えて、午前中はずっと語り合って過ごした。 話すことはいくらでもあり、時間は羽根が生えたように飛んでいった。
六時課の鐘の音(=正午)が窓辺から伝わってきて、ようやくイアンは昔話の熱狂から醒め、あわてて暖かい部屋で脱いでいたマントを傍らから手に取った。
「話は尽きませんが、家に戻って出発の準備を終えませんと」
伯爵は真顔になって、膝に乗ったイヴリンを妻に渡し、自分も椅子から立ち上がった。
「ではアレスベリー男爵になって戻ってくるのだな」
イアンはぎこちない笑みを浮かべた。
「ワイツヴィルを継ぐのは遥か先ですから」
とたんに緊張がほぐれ、伯爵夫妻の笑い声が陽気に広がった。
「そうだとも。 過去を取り戻すためにも、あと百年は生きてやるぞ!」
屋敷に戻る道筋で、イアンの胸は躍っていた。 これまで抱えていた隙間だらけの心が、次々と埋まっていく。 最愛の妻がいて、誠実な父母ができて、何でも話せる親友がいて。
今度の旅行は、安全第一にのんびりと行こう。 ジョニーはこれまで心細い旅ばかりしてきた。 今度こそ楽しく、くつろげる道中にしたい。
改めて、イアンはジョニーを想った。 父にとっての母のように、自分にはジョニーが何より必要だ。 彼女は日の光や空気のようなもの。 欠くことができない存在なのだと。
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