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道しるべ
249 館に向かう
大広間を出た後、イアンは急いで妻を捜した。
ジョニーは二人の寝室で、侍女のユージェニーと共に帽子類を箱に詰めていた。 ユージェニーは屋敷に残って家中をまとめてくれと命じられたが、どうしてもジョニーについていくと言ってきかなかったのだ。
人の気配に振り向いたジョニーに、イアンは早口で告げた。
「ワイツヴィル館に行ってくる。 伯爵の本心がわかったから、あやまらないと」
とたんにジョニーの表情が優しくなった。
「よかった。 あなたとお父様が永遠に仲たがいを続けるなんて、見ていて辛いもの」
「仲直りは難しいかもな」
イアンは楽観的な見方に釘を刺した。
「伯爵の言葉を聞かず、母の取りなしも無視して戻ってきてしまったから。 伯爵は誇り高い人だし」
「あなたもね」
そう言いながら、ジョニーは彼に歩み寄ってきて、頬に触れた。
「あなたは伯爵に冷たかった。 だから、伯爵からきつい言葉を投げられても、一度は我慢してね」
イアンは笑って、ジョニーの鼻の頭にキスした。
「一度だけ?」
「ええ。 あなたの誇りも大切だから」
二人はぎゅっと抱き合い、それからイアンは静かな気持ちで、階段を下りてクリントと合流した。
間もなく城になるワイツヴィル館は、よく晴れた小春日和の中で、一段と白く際立って見えた。
正面から入るとすぐ、クリントは自ら、伯爵にイアンが訪ねてきたことを言いに行ってくれた。 そして、五分としない内に戻ってきた。
「殿はお会いになるそうだ。 昨日呼ばれた表の間に行け」
「感謝します」
重ね重ねのクリントの思いやりに、イアンが恐縮して礼を述べると、クリントはいたずらっ子のような笑顔になって、体を寄せて耳打ちした。
「おまえ達のおかげで、おれは生まれて初めて金持ちになったんだぞ。 おかげで女房は暖かいコートとブーツを新調できたし、おれは立派な鞍を作れたし、息子たちにも夢見ていた頑丈な鎧を作ってやることができた。 せめてこれぐらいはしないとな」
中央塔の部屋の前には、小姓が一人立っていた。 ジェレミーというそばかすだらけの小姓は、上がってきたイアンを見つけると走り寄ってきて、扉まで案内した。
ジェレミーがうやうやしく開いてイアンを通すと、部屋の中央に立つカー伯爵がすぐ見えた。 彼は飾りのない普段着の上に袖なし上着をまとっただけの姿で、じっと息子を見つめていた。
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