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道しるべ  247 怖い裏事情


「だからいつも見ていたと言ったでしょう?」
 大広間の入り口から、女性のよく通る声がした。 部屋の中にいた者は、いっせいに振り向いた。
 彼女にしては地味な服の裾をはためかせながら、モードは軽々とした足取りで入ってくると、クリントの横に並んだ。
「レディ・イザベルはどんなときでもカー伯爵を目で追っていたわ。 あれは愛情のせいだけじゃなかったのね。 伯爵が逃げないよう、真実を人に告げないように、見張っていたんだわ」
「そして部下たちは、豊かな領地から身代金を容赦なく奪っていた」
「勝手に自分のふところに入れてたんじゃないの?」
 モードがあっけらかんと指摘した。
 そこで、先代からこの土地に住み、様々なことを見聞きしているガレスが口を挟んだ。
「おそれながら、今のご領主はお若い頃、元気一杯なお方でした。 勇猛果敢というのは、あの方のためにあるような言い回しで。
 あんなに強い性格の殿が、いくら相手が魔女でも簡単に言うことを聞くとは考えにくいんですが」
 不意に広間を沈黙が支配した。 クリントが言葉では答えず、ただじっとイアンを見つめたからだ。


 イアンの喉が動いた。
 普通の調子で話そうとしたが、引っかかって妙な声になってしまった。
「まさか、おれのせいだというんですか?」
「おまえのせいだとは言っていない」
 嘆息に近い声で、クリントは答えた。
「いい悪いの問題じゃない。 ただカー伯爵には、自分を犠牲にしても護りたい人が、二人あったというだけだ」
 それは母と、このおれか。
 喉だけでなく、胃まで奇妙なふうによじれた。 森の片隅で、地を這うようにして暮らしてきた自分たち母子が、レディ・イザベルの仕掛けた人質だったというのか。
「イザベル様は毒を自由自在に使えるからな。 病死に見せかけて殺すこともできる。 伯爵は必死だったんだ。 おまえ達に危害を加えさせないために、人前ではイザベル様を妻として大事に扱った。
 だが裏では凄かったらしいぞ。 ウィニフレッド様の後添えが嫉妬に狂って彼女を売り飛ばそうとしたと聞いて、激怒した伯爵は、それを止めなかった護衛の一人をずたずたにしてしまった。
 それ以来、イザベル様たちも前ほど横暴に振舞えなくなって、やっとおれが大隊長に抜擢され、奥に隠された事情を教えてもらえたんだ」










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