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道しるべ
244 難しい告白
窓からモードの訪れを確かめていたトムは、ベッドにぺたんと座ってジェニーのこしらえた人形で遊んでいるロザモンドを見やってから、緊張した面持ちで戸口に目を据えた。
扉は開いていた。 だから、走ってきたモードに、二人がどこにいるかすぐわかった。
息を切らしながら立ち止まると、モードはまず愛娘に目を向け、元気なのを確かめて胸を撫で下ろした。
「ロージー!」
聞きなれた声を耳にして、ロザモンドは人形の腕をつかんだまま立ち上がり、母のほうへ両手を差し伸ばした。
飛んでいって娘を抱きしめてから、モードはトムを見上げた。 窓辺に立つトムは、背後に日の光を浴びて、大きな黒っぽい彫像のようだった。
動かず、声も立てずに立ち尽くしているその姿に、モードはゆっくりと歩み寄った。 そして、体側に垂れた大きな手に触れ、自分の胸に持っていった。
「命を助けてくれて、ありがとう」
それに応えて、トムも口を開こうとした。 だが言葉は詰まって喉で消え、唇だけが小さく震えた。
モードはいっそうトムに体を寄せ、耳の横でもつれている髪を、そっと撫でた。
「いつも気になってたわ。 ここがいつでもくしゃっとなってる。 直したかった。 こうやって」
「わたしは……」
トムはようやく声が出たが、ひどくしわがれていた。
「身なりなんてどうでもよかったんです、もう」
「私にはそうは思えない」
モードの声が息に変わった。
「あなたを立派に見せたい。 だって立派なんだもの。 強くて賢くて、私にはもったいないほどの……」
モードは最後まで言い終われなかった。 トムが唐突にひざまずいて、極度の緊張に強ばった顔を彼女に向けたからだ。 彼が膝を床についても、二人の背丈はだいたい同じぐらいだった。
「レディ・モード。 わたしは……」
いつもは静かながら言葉につまることのないトムが、壁に頭をぶつけたように口ごもった。
モードは黙って待った。 体が、張り切った弓のように緊張している。 期待と不安が全身にあふれていた。
トムは息を吸い込み、もう一度挑戦した。
「自分を偽り、貴方に嫌な思いをさせました。 心からお詫びします」
聞いていたモードの口角が、がっかりして垂れ下がった。
「あやまることはないわ」
それから横を向いて、独り言のように付け加えた。
「もっと違う話かと思ったのに」
「今のは半分です」
そこで息が苦しくなって、トムは小さく咳払いした。
「これからの未来に何が待っているか、貴方を少しでも幸せにできるかわからないのですが」
モードは拳を握って目を閉じた。 気持ちが前のめりになって、沸騰した鍋状態になりつつあった。
「もし貴方が許してくださるなら」
「許すわ!」
遂にじれてそう叫ぶなり、モードは自分も膝をつき、トムのがっしりした首を引き寄せて、激しく抱きついた。
「だから早く、最後まで聞かせて。 いえ、最後だけ聞かせて! あなたがいなきゃ幸せになれないって、わかってるんだから!」
その言葉に、トムは胸一杯になって声が出せなくなった。
二人の大人が床に座り込み、半泣きになりながら抱きしめ合っているのを見て、ロザモンドは楽しく取っ組み合いをしていると思ったらしい。 笑い声を上げてベッドから飛び降り、二人の上に折り重なった。
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