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道しるべ
239 置手紙には
窓枠に手を置いて、イアンは太陽が没するのを、無言で見つめ続けた。
ついにすっぽり赤い球体が地平に沈んでも、薔薇色の残照は空の半ばを覆っていた。 淡いその光の中で、イアンは体全体を引きずるように動かして丸テーブルまで戻った。
そして羊皮紙を手に取ると、重い足取りで窓際に引き返し、力任せに引き裂いて外に投げ落とそうとした。
そのとき、絶対に見たくなかった羊皮紙上の文章が、書き出しの部分だけ目に飛び込んできた。
『あなたを愛しています』
イアンは息を止め、夕方の風に舞い落ちかけた紙を、必死に受け止めた。
そのせいで窓から落ちそうになったが、かろうじて二片の紙切れを両方とも手に残すことができた。
胸が迫って呼吸が苦しい中、イアンはちぎった紙を突き合わせ、裏までぎっしりと書いてある文字を、目をこらして読み下した。
『あなたを愛しています。
ダランヴィーユ卿の屋敷で初めて逢ったときから、ずっとあなたを想い続けてきました。
その気持ちは、あなたとトムと旅を続ける中で、どんどん大きくなっていきました。 あなた達のように心がきれいで信頼できる男の人を、私は他に見たことがありません。 その上、男らしい魅力が一杯で、憧れの的で。
でもあのときの私は、あなたの眼を引くような女ではなかった。 どうしても見直してもらいたくて、叔父のところへ駆け込んだのです。
私の願いは叶いました。 けれど、あなたの本当の心はどうなのでしょう。 これまでは、夢が現実になっただけでありがたくて、とても訊けませんでした。
でも、王様から貴族の位を頂けるとわかり、このままではあなたの将来が暗くなるかもしれないと思い始めました。 好きでもない妻に縛られて、いつか不幸になるかもしれないと。
ですから、あなたに願います。 これから日が沈むまで、裏庭の樫の大木の下で待っています。 もしこれからも私が本当に必要なら、会いに来てください。
もう一度告白します。 あなたを心底愛しています。 少しでも大事に思ってくださるなら、どうか来てください。
いつもあなたのジョニーより』
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