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道しるべ
232 妹の温もり
これが妹のイヴリンか。
間近に見るのは初めてだった。 ウィニフレッドと再婚した後、カー伯爵は幼い娘もこの館に連れてきたが、ほとんど人前に出さず、中央塔だけで養育していた。 だから、窓が開いているとき、はしゃぐ声がごくたまに響いてきて、前庭を通る人々が見上げるくらいで、中には伯爵に娘がいることを知らないままで領地を去っていく旅人もいた。
ちびの妹は、もうしゃきしゃきと歩いて、丸い顔に一面の笑みを浮かべていた。 カールした淡い金髪が頬を縁取って揺れ、くりっとした青い眼が楽しげに周囲を見回した。
その眼が、イアンの緑の瞳と出合った。 するとどうしたことか、イヴリンは母の手を急に振り切って、歳の離れた兄めがけて転がるように走ってきた。
実際に、あまり急いだため足が追いつかなくて、前のめりになった。 かかとがもつれ、おでこから床にぶつかる前に、イアンが反射的に身を屈めて受け止めた。
はあはあ息をつきながら、幼児はイアンを見上げた。 そして、むちっとした両腕を伸ばすと、かわいい声でせがんだ。
「だっこして」
意識するより先に、腕が勝手に動いた。 イアンは軽々と妹を抱き上げ、両腕の中に居心地よく収めた。
幼児は喉を鳴らしながら、肩近くまであるイアンの金茶色の髪に触った。
「おんなじ。 お母様とおんなじだ」
それから、いきなりイアンの胸をよじ登って首に腕を回すと、ぎゅっと抱きついた。
人見知りをしないちびの体温が、暖炉のぬくもりのようにイアンを暖めた。 そのとき、まったく突然に彼の視野が曇った。
涙ぐんだ自分に、イアンは激しく動揺した。 それであわてて隠そうとすると、妹の髪に顔を埋める形になってしまった。
やがて衣擦れの音が聞こえ、誰かが前に立った。 母のウィニフレッドだと、見なくてもイアンにはわかった。
娘を受け取りに来たのだと思い、イアンは顔をもたげた。 だが、ウィニフレッドは腕を思い切り開くと、自分の子を二人もろとも抱きしめた。
イアンの息が、一瞬止まった。 懐かしい感触に、身体がしびれるような懐かしさが襲ってきた。
「母さん……」
低い呟きに、母の涙声が応えた。
「どんなに嬉しいか! やっとあなたを迎えられるようになって……!」
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