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道しるべ  230 父親が別人


 今聞いたゴードンの企みを考え合わせて、イアンは最近、モードといるとき暗殺者に狙われた理由が、ようやくわかった。
「我々に弓を射掛けたのは、ヴィクターの手先だったんですね」
「ええ、私とあなたが近づきすぎないように見張らせてたらしいわ。 それで最近、私たちが仲よくなったのを誤解して」
「ゴードン様の望みが叶ったかと思い、跡継ぎを宿したかもしれない貴方を殺そうと考えた」
 イアンは顔を歪めた。
「ヴィクターは貴方を愛していたのに、それでも領主になりたいという欲望を捨てられなかったわけですね」
 それを聞いて、モードは皮肉な表情になった。
「ほんとは、なる資格なんてないのにね」
 イアンは目をしばたたいた。
 資格がない? どういう意味だ。
 モードは長い睫毛を上げ、真面目な視線で彼を眺めた。
「あなたは賢いし、世間をよく知っているけど、心のきれいな人よ。 だから世の中には裏のまた裏があるってわからないのよ。
 わかってても実感できないのかもしれない」
「何の話ですか?」
「つまり、ヴィクターはカー伯爵の子じゃないってこと」


 何だって?!
 こればかりは、イアンの予想外だった。
 唖然としている青年に、モードは淡々と説明した。
「知ってると思うけど、伯爵は最初の奥方を愛してなかった。 好きでさえなかったと思うわ。
 だから、できた子は一人。 ゴーディーだけ。 ヨークシャーへ戻ってきてからは、奥方の手を握ったこともなかったでしょう。
 結果として、ヴィクターは他の男の子供に決まってる。 父親はたぶん、サー・レオンかサー・ユーグのどちらかね」
 ああ、そういうことだったのか……。
 無意識に、イアンは呟いていた。
「実はヴィクターと伯爵は赤の他人で、嫌い合っていたわけだ」
「その通り」
と、モードはぽつりと答えた。
「カー伯爵は、フランスからくっついて来た連中を憎んでいたわ。 彼らは、表面では伯爵を立てていたけれど、陰では偉そうに口出しして、領地からの収入をずいぶんネコババしてたのよ」
 イアンの心に不快感が広がった。 フランス勢力は確かに厚かましい。 だが、彼らの横暴を許していた父の腰抜けぶりは、もっと許せなかった。










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