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道しるべ  229 跡継ぎが夢


 メアリがぽかんと口を開け、モードも虚を突かれて、一瞬目を輝かせた。
 だが、嬉しい表情は次の瞬間に消え、辛そうな影が戻ってきた。
「彼は私にひざまずいて頼んだわ。 子供だけは闇に葬らないで自分に預けてくれと。 命に代えても大切に育てると神に誓った。
 彼はね、子供の傍にいるためなら、どんなことでもする気なのよ」
「それはなぜだと思います?」
 激しい口調で、イアンはモードに迫った。
「他でもない貴方の子供だからです! 初めて貴方に逢ったころ、トムは名もない見習僧侶にすぎなかった。 領主の姫君は彼にとって、雲の上の人だった。 一緒に暮らせるなんて、夢にも思ったことはないでしょう。
 そんな貴方が自分の子を産んでくれる。 彼にとっては、手の届く貴方の唯一の形見だった。 だからたまらなく欲しかったんです」
 聞いているうちに、モードの顔が歪んだ。 涙を必死にこらえながら、彼女は囁いた。
「私だって、あの子を手放したくなかった。 ロザモンドを見た? かわいいし、落ち着いていて丈夫でしょう? まるでトムそっくり。
 ゴーディーは約束してくれたわ。 私が跡継ぎを産んでヴィクターの野望をくじいたら、あの子を自分の庶子ということにして館に引き取ってくれるって。 その手始めに、ヨーク郊外の農家に預けていたロージーをセント・イザベルに入れてくれたのよ。 あの子が近くに来て、顔を見られるようになって、どんなに嬉しかったか!」
 イアンは少しの間、言葉を失った。
「しかし……ゴードン様は……ええと」
「わかってるわよ」
 モードはじれったそうに髪を掻きあげた。
「彼は子供を作れなかった。 トムは私に絶対近づかないし。
 だからゴーディーは、あなたに私の護衛を押し付けたんじゃない。 ほんとに気付かなかったの?」


 イアンはモードの顔を穴があくほど見つめた。
 それから、息を引いて一歩下がった。
 たじたじとなったその姿を見て、こんなときでもモードは吹き出しそうになった。
「もてもてで世間をよく知ってるくせに、焦ってるわね。 これまでにそういう女はいなかった? あなたと子供を設けるためなら何でもするっていう貴婦人は?」
 うわ〜〜……!
 ゴーディーから種馬として狙われていたと知って、イアンは胃が痛くなった。











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