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道しるべ  228 知らされて


 まだ下っ端で入館を許されていないアンガスを残して、イアンはメアリと共に玄関ホールを通り抜け、モードの居室へと急いだ。
 モードの意識はすでに戻っていて、メリッサが嬉しげに女主人の美しい金髪をとかしていた。
 その様子を見たとたん、メアリが眉を逆立てた。 いつも彼女がその役目を引き受けているからだ。
「奥方様〜! 生きていらして、こんな嬉しいことはありません!」
 メアリが喜びの叫び声をあげたのを聞いて、モードは疲れた顔を上げ、心もとない微笑を浮かべた。 打ち身のあざが時間の経過とともに濃くなって、額に青と紫の陰気な模様を作っていた。
「メアリ、どこにいたの?」
 女主人の傍に駆けつけ、メリッサの手からブラシを奪い取ると、メアリは一息ついて勝利の眼差しになった。
「悪い知らせを聞いて、イアン様のお宅に駆けつけました。 イアン様はいつも奥方様をお守りでしたから」
「正しい判断だったわね」
 そう言うと、モードはイアンに目を向けて挨拶した。
「すぐに来てくれてありがたかったわ。 トムを連れてきてヴィクターから救ってくれたのも」
「そのことなんですが」
 イアンはちらりとメリッサのほうを見た。 それからメアリに視線を移すと、忠実な小間使いはすぐに悟って、かすかに頭を横に振った。
 メリッサは新米で、事情を何も知らないらしい。 やむなく、イアンはモードに小声で言った。
「奥方だけのお耳に入れたい話があるのですが」
 モードは驚いたようだったが、すぐ振り向いてメリッサに言いつけた。
「温かい飲み物がほしくなったわ。 サー・イアンと私にホット・トディを持ってきてちょうだい」


 気の置けない人ばかりになった部屋で、イアンはモードに先ほど起きた話を語った。
「セント・イザベルに行ったのは独断ですが、副院長の動きが怪しかったので急いだのです。 この間、わたしをお連れになったときに、あそこで預かっている子供たちに特別の思いやりを持っていらっしゃるようだったので、もしかするとと勝手に思いまして」
 彼がトムを尼僧院に連れて行ったと聞いた瞬間、モードは青ざめ、トムがてこでも子供から離れなくなったと知って唇を震わせた。
「……そんなに可愛がっているの?」
「宝物のように。 お嬢さんのほうも、一目でトムになつきました」
 モードは視線をそらし、窓の外の景色に目をやった。
「あの人ならそうでしょうね。 ほとんどの人に好かれるんだから」
「ですが、彼が好きな女性は貴方だけです」
 イアンはずばりと口にした。











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