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道しるべ
227 親衛隊の謎
それでは君は、トムの心を得られないのを早くから知っていたんだな──イアンは胸の中で問い掛けた。
だが、口には出さなかった。 すでにジョニーは彼の妻だ。 微妙な含みのある問いは、闇に埋もれさせるのが一番だった。
夫の肩にそっと触れると、ジョニーは言った。
「トムはやっと逢えた子供から離れたくないでしょう。 でもあの子がここにいることを、誰かがモードに伝える必要があるわ。 気がついたらひどく心配するに違いないもの」
「そうだな。 まだ暗くなるまでには少し間がある。 わたしが館に戻って、レディ・モードの様子を見てこよう。 メアリはどこだ?」
保護していたモードの小間使いを思い出して、イアンは人々が集っている広間に戻った。
果たしてそこには、賑やかな騒ぎを聞きつけたメアリも来ていて、ロザモンドを嬉しそうにあやしていた。 モードの腹心だから、子供の存在を知っていたのだ。
入ってきたイアンと目が合うと、メアリはスカートをひるがえして飛んできた。
「ほんとに奇跡です! モード様が生きておいでだなんて嬉しくてたまりません。 すぐお館へ戻りたいんですが」
「わたしも今から行くから、連れていってあげよう」
「ありがとうございます!」
彼女が、ここに伴った黒髪の兵士アンガスを呼びに行っている間に、イアンは見習いのミッチとヘンリーに馬を用意させた。
女性のメアリを真中にして、三人は馬の背にまたがり、たそがれの空の下を走った。 夕方になって強まった風が冷たさを増し、冬の訪れが近いことを感じさせた。
すぐに到着したワイツヴィル館は、夕日の中でいつもより明るく感じられた。 その上、どことなくのどかな雰囲気がただよっている。 門が再び大きく開かれ、笑顔の人々が働き蜂のように戻ってきているのを見て、イアンは明るさの理由を悟った。
不思議だった。 ヴィクター一人がいなくなっただけで、こんなに空気が変わるものなのか。
いや、一人じゃない、とイアンは思い返した。 いつもヴィクターとゴードン兄弟を取り巻いていたフランス勢も、一斉に地下牢へ入れられたのだ。
あの連中は何だったんだろう。 イアンは初めて、彼らを常備軍と切り離して考えた。 フランスから来たイザベルの護衛兵たちとは、いつも共に演習していた。 訓練も共同でやった。 国王がフランス遠征に出るときはさすがについてこなかったが、かといって反乱を起こす気配もなかったし、起こせる人数もいない。 三十人ほどだ。
護衛兵たちは訛りのある英語で話し、地元とうまくなじんでいた。
ただし、上官のサー・ユーグとサー・レオンは別にして。
二人は決して英語を口にしなかった。 常にフランス由来の服装をしていた上、高慢で、地元をバカにしているのがありありとわかった。
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