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道しるべ  226 幸福と憂愁


 イアンは胸が広がる思いで、愁眉を開いた。
 トムがようやく自分の気持ちを秘め隠すのを止め、モードに本心を語るつもりらしいとわかったからだ。


 乗り手が浮き立っていると、馬も機嫌よく走ってくれる。 イアンたちと子供の三人連れは、風に乗るような勢いで屋敷に帰ってきた。
 迎えに出たジョニーは、トムが宝物のように抱えている小さな女の子を見て、目を見張った。
「おかえりなさい。 その子は?」
「中で話す。 もうおむつは取れているようだが、まともな服があるかどうか。 この荷物を調べてみてくれないか?」
 渡された二つの包みを、ジョニーはうなずいて受け取った。


 トムはロザモンドを抱いたまま、なかなか手離したがらなかったが、子供好きなエッシーがなだめすかして、広間の大きな机にちょこんと座らせた。
 幼児はちゃんと面倒を見てもらっていて、空腹ではないし清潔だった。 ただ、ご馳走は食べさせてもらってないらしく、エッシーが持ってきたアップルタルトのおいしさに目を丸くして、うれしそうに口に運んだ。
 その間に荷物を別室でほどいていたジョニーが、粗末な服を二組持って入ってきた。
「まともなのはこれしかないわ。 洗ってあるけど明らかに古着よ」
「私がすぐに縫いますよ。 生地はほんのちょびっとでいいし、縫い物は得意ですから」
 メイドのベッキーが張り切って申し出た。 彼女はきれいな物が好きで、空き時間に器用な指を使って襟飾りやベストの刺繍などを仕上げるのがうまかった。
「じゃ、お願いするわ」
 ジョニーは静かに言って、ベッキーが子供に笑いかけながら手で寸法を取るに任せた。


 周りの注意が子供に集まっているうちに、イアンはジョニーを隣室に誘って、事情を打ち明けた。
「トムはレディ・モードの恋人だった。 おそらくただ一人の。 あの子はロザモンドといって、二人の間にできた子だ」
 ジョニーは驚かず、目を伏せて聞いていた。
 そして言った。
「トムの事情は知っていたわ」
 ぎょっとして、イアンは妻を見つめた。
「知っていた?」
「ええ、カレーにいたとき、彼が打ち明けてくれたの」
 それから、溜息のように付け加えた。
「一人で抱えているには辛すぎる秘密もあるわ」











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