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道しるべ  223 行った先は


 驚くトムの腕を掴んで、イアンは一目散に段を駆け下りた。
 説明している暇はない。 ばたばたと馬屋へ走り、二人の馬を引き出して、あわてて飛び出してきた馬丁に鞍を用意させた。
 馬丁がてきぱきと支度している間に、ようやくトムが聞きただす時間ができた。
「いったい何を急いでいる!」
「心当たりがあるんだ」
「何の?」
「子供だ」
 トムは口をあけたまま、後ろによろめいた。
「まさか!」
「会ったことはないが、たぶん間違いないと思う」
「本当か!」
 みるみるトムの顔が上気した。 そして、身のこなしが軽いイアンより素早く、馬に飛び乗った。


 草の枯れはじめた野原や小川のほとりを、二人は馬を駆って突っ切っていった。 最短距離で着いたのは、セント・イザベル尼僧院の大門の前だった。
 イアンがガンガンと叩いて案内を請うと、中から黒い影が二つ現われて、覗き窓を開いた。
「騒がないでください。 男の方お二人が、尼僧院に何の御用です?」
 その問いに答える前に、イアンは息せききって尋ねた。
「レディ・モードが亡くなったという噂は、ここまで届いていますか?」
 狭い窓の向こうで、黒ずくめの尼僧二人は顔を見合わせた。 その様子ですぐ、イアンは彼女らがもう知っているのを悟った。
 イアンは覗き窓に息がかかるほど近づいて告げた。
「それは間違いです。 レディ・モードは軽い怪我をなさったが、生きておいでです」
「まあ……!」
 尼僧たちは明らかに狼狽した。 年かさのほうが、すぐに服の裾をひるがえして尼僧院の玄関に入っていくのを目で追いながら、イアンは若い尼僧に命令口調で言った。
「わたしはモード様の使いで来ました。 すぐ入れてください。 そして、モード様がお預けになっている子供のところへご案内を」
「あの」
 若い尼僧はあたふたした。
「私の一存では……」
「わたしがレディ・モードにお仕えしているのはご存知でしょう? ここへ来るときはいつも一緒ですから。 それとも信用できないと言うのなら」
「いえ決してそんなことは」
 尼僧はますます慌て、責任放棄してしまった。
「どうぞ。 院長様のところへご案内します」











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