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道しるべ  221 隠れた本心


 死の縁ぎりぎりまで行ったモードは、忘れられたように一人で立っていた。 一日のうちに殺されかけたのが二度目だから、さすがにひどい顔色になっている。
 イアンは見かねて、モードの傍へ行こうとした。 だがその寸前に、モードは突然振り向いて、まだ床にひざまずいたままのトムを見た。
 トムもそのとき、垂れていた頭を上げた。 二人は糸で引かれたように、無言で見つめ合った。
 とたんにモードがよろめいた。 あやうく命拾いした衝撃で、今になって力尽きたらしい。 棒のように前のめりになって倒れかかってくるのを、トムががっしりした腕で受け止めた。
 モードを横抱きにしたまま、トムはすっくと立ち上がった。 その最中、彼が目を閉じて、気絶しているモードに頬ずりするのを、イアンは確かに見た。
 背後にいた人々も、そのわずかな間の光景を目撃した。 中にはモードに憧れている貴族や騎士も何人かいて、トムのなれなれしい動作にムカッとなった。
 そのうちの一人、サー・デルビーが大股で進み出て、モードを渡すよう居丈高に命令した。
「わたしが近くの休めるところまでお運びする。 レディを渡せ」
「ちょっと待て」
 すっとイアンがその前を遮った。
「日頃の護衛を任されているのはわたしだ。 今は不覚を取ってトムに救われた。 だからわたしがお連れする。 それなら不満はないな?」
 騎士たちは顔を見合わせた。 確かにイアンがモードを守っていて信頼されているのは、よく知られている。 しぶしぶと、サー・デルビーは道を譲った。
「お好きなように」


 イアンはモードを羽根枕ぐらいの感じで軽々と運び、階段を上がって自室に連れて行った。
 天蓋つきのベッドに寝かせると、侍女のメリッサが半泣きで看病を始めた。 彼女もモードが死んだものと思い込んでいて、たとえ気を失っていても生きていたことに感激していた。


 部屋を出たところで、じっと待機していたトムに出会った。
「大丈夫だ。 呼吸はしっかりしているし、脈も強い。 すぐ目覚めて元気になるはずだ」
 そうイアンが告げると、トムは目を伏せて頷き、先に踵を返して階段を下りた。
 イアンもすぐ後に続き、段の途中で追いついて並んだ。 そして、角を曲がる辺りで、ずばりと切り出した。
「おまえ、本当はレディ・モードなしでは生きられないんだろう?」












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