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道しるべ  215 館の中では


 薄日の野山を走りに走り、最短距離で館に近づくと、遠目からでもただならぬ様子なのがわかった。
 いつもはのどかに開いて、日中は商人や領民が出入り自由の正門が、ぴたりと閉ざされていた。 脇の門だけが半開きになって、人々はそこを通っている。 みんなそわそわと話を交わすか黙り込んでいて、笑いはなく、心配そうだった。
 イアンとトムが馬で近づいてくるのを目にして、門衛がわざわざ出てきて迎えた。
「お聞きですか? 大変なことになりました。 若い奥方様までが……」
 彼が絶句するのを、イアンは痛ましい面持ちで眺めた。
「何があった?」
「まだはっきりとは。 ただ、わかっているのは事故でも自殺でもないということです」
 横でトムが喘〔あえ〕ぐのが聞こえた。
「レディ・モードの腕に、強く掴まれた手の跡がついていたそうで」
「投げ飛ばされたのか!」
 イアンの声が無意識に大きくなった。
 何てことだ! ずっと護ってきたのに、家へ招待した直後に、こんなことになるなんて……。
 周囲を見渡してから、門番は囁き声になった。
「今、中でお調べが行なわれています。 すぐお入りください。 イアン様はレディ・モードと親しくなさっていましたから、力になってくださいますね?」
 そう言いつつ、門衛は顔を歪めて、涙をこらえた。
「モード様はいい方でした。 気取りがなくて、下々に親切で。 うちの女房が初めて長男のジョンを身ごもったとき、丈夫な子が生まれるようにと籠一杯の食べ物を毎週届けてくださいました。 いや、家の子だけじゃなく、子供が増える領民みんなに、いろいろとよくしておやりでした」
 貧しく育ったモードは、見かけと違い面倒見がよかったのだ。 彼女が昔から部下や召使に慕われていたわけを、イアンは改めて悟った。


 入り口が狭くなって混雑しているため、イアンとトムは外で馬を下り、引いて前庭に入った。
 玄関を守る衛兵も、イアンの姿を見て顔を輝かせ、丁重に挨拶した。 何時の間にか、周囲の彼を見る目が変化している。 イアンは好かれるだけでなく、頼りにされ始めているようだった。
「殿様方は大広間においでです。 お気の毒なレディ・モードをあんな目に遭わせた犯人を、皆様で探っていらっしゃいます。 イアン様も早くお入りくださいますように」
「トム・デイキンも連れていきたいが」
 イアンが問うと、衛兵は弓を背負ったトムに視線を移して答えた。
「大広間には警護隊長のクリント様はじめ、副隊長のルイス様や部下の方々もおいでです。 デイキンさんが武装のまま入っても、お咎めはないでしょう」
「ありがとう」
 イアンは話のわかる衛兵にうなずき、トムと共に広い本階段を駆け上がった。











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