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道しるべ  214 残酷な報告


 悟りの早いイアンだが、この知らせには耳を疑うというより、なかなか意識にしみこまなかった。
「えっ?」
 メアリーの顔が、くしゃくしゃに歪んだ。
「亡くなったんです。 ご主人様のゴードン卿と同じに」
 水に落ちた犬のように、イアンは髪を振り乱して激しく頭を振った。
「信じられん。 さっき別れたばかりなのに」
「階段から落ちて、首を……。 それも、ゴードン様と同じ西塔で……!」
 訴える声が細くなって、嗚咽に変わった。
「あのお城は呪われているんでしょうか。 私、怖くて」
「わたしはすぐ城に行く」
 ようやく事態の重大さを飲み込んだイアンは、衝撃を押さえつけて決然と言った。
「よく知らせに来てくれた。 ひどい思いをしただろう。 ここで少し休んでいなさい。 それから城に帰るかどうか決めるといい」
「ありがとうございます」
 召使頭のエッシーを呼んで、疲れきった様子のメアリーを奥に連れていかせた後、イアンはトムを探しに行った。


 トムは自分の部屋で、黙々とつくろい物をしていた。 この屋敷には充分な女手があって、頼めば喜んでやってくれるはずだが、トムは見習い僧侶のときの習慣を守り、できることは全て自らでやっていた。
 イアンは動揺のあまり、ノックを忘れて扉を開けてしまった。 トムは別に驚かず、針を手にしたまま目を上げた。
「どうした?」
「トム」
 そこで言葉が続かなくなって、イアンは唾を呑んだ。
「これから城に行くんだが、一緒に来ないか?」
 それから、やっとのことで続きを口にした。
「レディ・モードに災いが降りかかったらしい」


 初めて聞いたときのイアンと同じに、トムも何のことか、最初はわからなかったようだ。
 ただ目を見開いて友を見つめていて、それから突然立ち上がった。 膝の上の物がすべて、床にすべり落ちた。
 無言で上着と愛用の弓矢を取ると、彼はイアンのすぐ後ろから廊下に出た。 そして途中で追い越し、馬屋に急行した。




 馬を並べて城まで走らせる道中で、イアンはどうしてもモードの命がすでに消えたことを言い出せなかった。
 トムは歯を食いしばり、凄い勢いで馬を駆っていた。 イアンと逢って以来、この長い年月で初めて、彼の顔が狼に見えた。











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